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#11 みぢかなイスラム

イスラム教徒になった日本人「残業なんてしなくていい」 その心は?

イラン南部シラーズのモスク。ステンドグラスから朝日が差し込むと、美しく内部が彩られる
イラン南部シラーズのモスク。ステンドグラスから朝日が差し込むと、美しく内部が彩られる 出典: 神田大介撮影

目次

 イスラム教シーア派に改宗した20代の日本人男性、吉田隆さん(仮名)。仏教や神道と違って、ただ一つの神(アッラー)の存在を信じるイスラム教は、吉田さんの生活にどんな影響を与えたのでしょう。仕事との関係、世俗主義についての考え…。ざっくばらんに聞いてみました。

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神とは「××でないもの」

 

神田(聞き手)

さて、ズバリお聞きしますが、吉田さんにとって神とはどんな存在ですか?

 

吉田隆さん(仮名)

『××でないもの』と考えると理解しやすいように思います。否定的な意味ではありませんよ。

 

吉田さん

たとえば、神とは『人間関係でないもの』。人間って、他の人間との関係の中に埋め込まれて生きていますよね。神の存在を意識することで、そこから距離を取り、俯瞰でものを見ることができます。

 

神田

そう考えることで、見えてきたことはありますか?

 

吉田さん

たとえば、日本では多すぎる残業がずっと問題ですよね。法律や規則で決まっているわけでもないのに、『仕事』なるものにとらわれている。

 

吉田さん

これを生んでいるのは、組織や社会の中にある同調圧力だったり、直属の上司や先輩社員との関係だったりします。

 

吉田さん

神の存在によって、そうした関係性を離れ、個として対峙できるようになると思います。不要な残業なんて、やらなくてもいいんです。神の命令でもあるまいし。
イランの首都テヘランで、神に祈りをささげる人たち=2016年9月9日
イランの首都テヘランで、神に祈りをささげる人たち=2016年9月9日 出典: 神田大介撮影

神とは「予見できない」

 

神田

吉田さんは、どんな時に神の存在を身近に感じますか?

 

吉田さん

イランを旅行していたとき、長距離バスに乗り遅れてしまったんです。そうしたら、困った僕を見たイラン人があちこちに電話をかけてくれて、なんと乗る予定だったバスの運転手につながって、そのバスは発車せずに僕を待ってくれていた、ということがありました。

 

吉田さん

日本ではあり得ないですよね、定時になったら発車する。すごく感動したんですよ。世の中には自分の力を超えたところで動くことというのが確かにある。そういう時に神の存在を感じます。

 

吉田さん

日本社会って、極端に『予見可能性』が上がっていますよね。電車がちょっと遅れたり、ネット通販が予定の配達日に届かなかったりしただけで大騒ぎします。でも、自分で何でもコントロールできると考えるのは、ちょっと違うんじゃないでしょうか。
イスラム教シーア派の最大行事「アシュラ」で、ろうそくに火をともす人たち=2016年10月12日
イスラム教シーア派の最大行事「アシュラ」で、ろうそくに火をともす人たち=2016年10月12日 出典: 神田大介撮影

 

神田

ヨーロッパやアメリカで、イスラム教徒の生むあつれきが何かと問題になりますね。

 

吉田さん

宗教の共存についてずっと考えています。気になるのが、欧米や日本といった先進国では、イスラム教を含む宗教は世俗主義にあわせるべきだ、という議論にしかならないことです。

 

吉田さん

世俗主義というのは、信仰は個人の心のうちにとどめ、政治や社会のことからは切り離すという考え方です。ただ、イスラム教の世界では『宗教的おせっかい』が肯定される。みんなでモスクに行って礼拝しようよ、と呼びかけるような。

 

吉田さん

僕は決して宗教をすべて肯定するわけではありませんが、頭から否定するのは浅はかだと思います。宗教ってもっと奥深いものです。
イラン中部ヤズド近郊で、談笑するイスラム法学者。仏教でいうところのお坊さん=2015年10月24日
イラン中部ヤズド近郊で、談笑するイスラム法学者。仏教でいうところのお坊さん=2015年10月24日 出典: 神田大介撮影

あの女優さんのことも聞いてみた

 

神田

話は変わりますが、イスラム教徒になったことで、警察など公安部門にマークされる不安はないですか?

 

吉田さん

実際に、東京にあるモスクに警察が内偵に入っているという話は聞きますね。自分がチェックされているのかどうかはわかりませんが、やましいことはありませんし、不安は特に感じません。

 

神田

では最後に。最近、女優の清水富美加さんが信仰する宗教団体「幸福の科学」の活動に専念すると発表し、大きな話題になりました。どう思いましたか?

 

吉田さん

うーーーーーん、まあ詳しいことは知りませんが、偶像崇拝になっていないかということが気になりました。神ではなく人間や、人間のつくったものを信仰の対象にしているのではないかということが。

 

神田

長いインタビューにお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

 というわけで、極めて率直にイスラム教について話してくださいました。

 言うまでもなく、ここに書いたことはすべて吉田さん個人の見解であり、物の見方で、イスラムの「正しい教え」「正しい理解」を説明するものではありません。

イラン北西部アルダビールで見かけた、イスラム教シーア派のお墓。遺体は日本のように火葬せず、地面の下に埋める=2016年10月13日
イラン北西部アルダビールで見かけた、イスラム教シーア派のお墓。遺体は日本のように火葬せず、地面の下に埋める=2016年10月13日 出典: 神田大介撮影

 また、イスラム教はいちど改宗すると、原則として別の宗教に改宗し直すことはできないということも、あわせてお伝えしておきます。

 イスラム教徒は今後、日本でも世界でも、増え続けると予想されています。

 ただ、知らないものは怖いもの。イスラム教はどこか不気味なものだと思われがちですが、同じ人間の営みであることに違いはありません。

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