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感動

「え、ユーチューバーなの? すげぇ!」被災地で生まれたサプライズ

岩手町の商店街で下校中の子どもたちに囲まれる人気ユーチューバーのロレッタさん(右)とシャルルさん
岩手町の商店街で下校中の子どもたちに囲まれる人気ユーチューバーのロレッタさん(右)とシャルルさん

目次

 「『東北』イコール『悲劇』だと思ってきた」。そんな外国人ユーチューバーが撮った動画が話題を集めています。舞台は「岩手県岩手郡岩手町」。三つも「岩手」が並ぶのに、日本人にもあまり知られていません。しかし動画を見た外国人からは「旅行に行きたい」「一緒に飲み会したい」などと問い合わせがあるといいます。いったい何が外国人を引きつけたのか。人気ユーチューバーの取材に同行しました。

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【動画】ロレッタさんの動画「日本の雪を初体験した外国人 || 岩手県を取材してみた!」

そもそも東北全体が無名

 動画を作ったユーチューバーは関東在住のアメリカ人学生、ロレッタ・スコットさん(28)。「日本語学習者あるある」などをまとめたユーチューブチャンネル「KemushiChan」は3万5千人超が登録する人気です。東北は今回が初めて。

 「東北って旅先として京都みたいにすぐ思い浮かばない。自分から行きたい外国人って少ないんじゃないかな」とロレッタさん。

 最近発表された観光庁の統計でもそれが明らかです。

 日本に来る外国人宿泊者数のうち、東北6県に泊まりに行くのは全体のわずか1%(2016年)。東日本大震災以前も約2%で、マイナーなのは変わらずですが、震災から6年経っても伸びる兆しが見えません。

 「インバウンドで全国の集客が伸びているなか、東北だけが取り残されている」と、復興庁は昨年から「東北観光復興元年」として「てこ入れ」を始めました。ロレッタさんが取材に行ったのもその事業の一貫です。

岩手町中心部を散策するロレッタさん(右)とシャルルさん。「タイムスリップしたみたい」
岩手町中心部を散策するロレッタさん(右)とシャルルさん。「タイムスリップしたみたい」

ユーチューバーの手腕

 2月下旬。ロレッタさんが到着したのは「いわて沼宮内駅」。岩手町にある新幹線の駅です。JR東日本によると、1日の平均乗車人数はわずか85人(2015年)で、日本有数の利用者数が少ない駅。

 閑散とした駅前。ロレッタさんは早々に一眼レフカメラ片手にして、「すごいところに来ました! 岩手……です!」と自撮り。

 一緒に取材するフランス人ユーチューバーのシャルル・サバスさん(26)と、予約したタクシーしかいないロータリーを前に「アメージング! 京都や大阪とは違うね」と目を輝かせます。

いわて沼宮内駅に到着。オープニングを撮影するロレッタさん(左)とシャルルさん
いわて沼宮内駅に到着。オープニングを撮影するロレッタさん(左)とシャルルさん

外国人は何に驚いた?

 撮影は岩手町などで外国人旅行者が現地で参加できるアクティビティーなどの「体験型商品」を販売する「ensorq(エンソーク)」が2人に依頼しました。

 日本に興味がある外国人というファンをつけている2人なら、確実な動画再生数を稼げる。視聴者の多くは日本通の在住外国人で、東北にも足を伸ばしやすいとの算段です。

 道の駅で岩手町特産のキャベツを使ったB級グルメ「いわてまち焼きうどん」の実食。雪原の畑で「雪下ニンジン」の収穫体験。

 様々なイベントを体験した2人の心をつかんだのは意外な出来事でした。

雪の下から収穫したニンジンを手にポーズ。ロレッタさんの撮影風景
雪の下から収穫したニンジンを手にポーズ。ロレッタさんの撮影風景

「ハロー!」「アイハバペーン!」

 それは、岩手町の商店街の散策です。続々とサプライズが現れました。

 下校中の子どもたちは2人を見つけると「ハロー!」。道路の対岸から「アイハバペーン!」と「ピコ太郎」をまねておどけます。もちろん仕込みなしの「おもてなし」。

 歩く2人のまわりに子どもたちが群がり、「え、ユーチューバーなの? すげぇ!」「こんなチャンスめったにないよ」と涙ぐむ子まで現れました。

 外国人慣れした都会では想像できない素朴な子どもたちの反応。ロレッタさんも「旅のハイライト」と感激です。

岩手町の商店街を散策中のロレッタさんとシャルルさん。物珍しさに下校中の子どもたちがぞろぞろと、ハーメルンの笛吹き状態
岩手町の商店街を散策中のロレッタさんとシャルルさん。物珍しさに下校中の子どもたちがぞろぞろと、ハーメルンの笛吹き状態

地元のものをそのままに

 商店街で飛び込んだだんごやでは焼きだんご作り、肉屋では雪下ニンジン入りの筑前煮で駅弁作り体験を楽しみました。「あそこで採れたものをここで食べられる。ネットワークが見えるのが良いね」とロレッタさん。

 肉屋の府金伸治さん(44)は「当たり前の地元の行事を体験してもらうのがこれからの観光になると確信できた」と話します。最後にロレッタさんたちをいつも町のどこかでやっているという「飲み会」に誘いました。

 料理を持ち寄り乾杯。地元の祭りの「音頭上げ」の合唱で、赤い顔の面々が「やーれこらのせ」と合いの手を打ちます。「まんずまんず飲まっせ(いいんだ、飲んでよ)」と酒をつぎあいます。

 「一番は良いのは人。外国人だからって特別扱いしないで、友達みたいに受け入れてくれた」。岩手町を去るロレッタさんと、シャルルさんが口をそろえました。

岩手町で地元の飲み会に参加。町のPRキャラクター「キャベツマン」も飛び入りでおもてなし
岩手町で地元の飲み会に参加。町のPRキャラクター「キャベツマン」も飛び入りでおもてなし

「東北=悲劇」ですか?

 実はロレッタさんには東北に拭えないイメージがありました。

 東日本大震災後、アメリカでも何度も聞いた「TOHOKU」。「『東北』イコール『悲劇』だと思ってきた。何もなくなってしまったとも聞いていて、実は緊張していた」と言います。

 旅の2日目、ロレッタさんたちは岩手県の沿岸部を訪ねました。今の東北の姿を映すのが目的です。大船渡市の小石浜ではホタテ漁師佐々木淳さん(46)の船に乗り込み、ホタテ漁に。

 ロレッタさんの顔ほどもある大きなホタテを、その場で刺し身にしたり焼いたりして食べました。ロレッタさんは「おいしい!」と絶句。

【動画】ロレッタさんの動画「大震災から6年、三陸を訪ねた外国人の反応」

 和やかな雰囲気のまま、佐々木さんは津波の体験を話しました。

 「あの漁港も全部流された。自然の猛威にはかなわないと思った。でも立ち直れるとも思ったんだ」

 ロレッタさんは「これからどうしたいですか?」と問い掛けると、「今までやれなかったことをしたいな。こういうツアーとか」と佐々木さんはほほえみました。

 「一緒に食べて話して、歴史を感じる、こういうツアーがあると良いと思います」とロレッタさんは応じました。

大船渡市でホタテ漁師の佐々木淳さん(左)の船に乗船したロレッタさん(右)とシャルルさん。震災後、漁を復活させるまでの話に聴き入る
大船渡市でホタテ漁師の佐々木淳さん(左)の船に乗船したロレッタさん(右)とシャルルさん。震災後、漁を復活させるまでの話に聴き入る

「来られて良かった」

 陸前高田市では「津波水位15.1メートル」などと刻まれた震災遺構を巡りました。その中でロレッタさんが熱心に撮影していたのは、かさ上げされた高台でした。「つらくはない。すごく、感動する」とつぶやきました。

 「ここで撮影したい」とロレッタさんが立ったのは、町を一望できる高台。一気にレポートしました。

 「東北は『何もない』ていうけど、何もないわけではない。新しく作っている! 私の足元の土地は人間が作った高台です」「普段よりも本当の日本に触れたように感じます。来られて良かった」

津波で被災した陸前高田市の集合住宅。町に正午を告げる音楽が流れる様子を撮影するロレッタさん(左)とシャルルさん
津波で被災した陸前高田市の集合住宅。町に正午を告げる音楽が流れる様子を撮影するロレッタさん(左)とシャルルさん

 この2本の動画には、公開後、英語で多くのコメントが寄せられています。

 「6年でこんなに復興しているなんて想像もできなかった」
 「力を合わせて町を再建させようとしている姿に胸を打たれました」「岩手って美しくて楽しそうなところだね!」

 より深く日本の強さや優しさを感じさせられるのが東北の良さです。「観光地化」せずとも、少しのきっかけやサポートで外国の方にも伝わるもの。

 ユーチューバーの新鮮な驚きは、被災地の新たな魅力を引き出していました。

【関連リンク】「体験型商品」を販売する「ensorq」の公式サイト

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