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IT・科学

アイドル自ら編み出した「アイドル論」 最強のツイッター戦略とは?

自身で考察した「アイドル論」を発表するAKB48チームAのメンバー田北香世子さん
自身で考察した「アイドル論」を発表するAKB48チームAのメンバー田北香世子さん

目次

 「計算社会科学」。耳慣れない学問のシンポジウムが3月8日神戸大学で開かれました。ネット上にあふれるSNSの膨大なデータを解析するなどして社会現象を分析する新たな学問ですが、シンポの参加者は、AKB48チームAのメンバー田北香世子さん(20)、数理モデルを使ったAKB48グループの選抜総選挙の順位予想もしている鳥取大の石井晃教授ら、ユニークな面々。知名度が決して高いとは言えない田北さんをブレークさせるべく、白熱の議論がかわされました。(朝日新聞記者・松村北斗)

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選抜総選挙は3年連続「圏外」

 シンポには学内外の380人余りから応募がありました。

 今回のテーマは「人気上昇の鍵は何か」。ぶっちゃけ、田北さんは一般的な知名度は低いのが実情です。

 ドラフト1期生で、自身も「アイドルオタ」。東京・秋葉原のAKB48劇場で行われている劇場公演や、1月のチーム8コンサート後に楽曲やメンバーの解説をインターネット上の動画配信サービスで行ったのが話題になった……といったエピソードは、AKBのコアなファンの中では知られています。

 が、しかし、選抜総選挙は3年連続ですべて「圏外」(81位以下)。今後のランクインを目指すにはどうすればいいか。シンポでの切実なテーマです。

選抜総選挙は3年連続ですべて「圏外」。今後のランクインが課題だった田北香世子さん
選抜総選挙は3年連続ですべて「圏外」。今後のランクインが課題だった田北香世子さん

「現役アイドルのアイドル論」

 中学1年のころからAKBの大ファンで、AKBになるまでの夢はかなえた田北さん。シンポでの講演は「現役アイドルのアイドル論」でした。内容をざっくりまとめると……。

人気が出るパターンは三つ。
・正統派アイドル
・個性派アイドル
・神対応アイドル

 正統派はいわゆる王道アイドルでアイドル性、かわいさ、天性の華や魅力がある。しかし、同期に1人か2人というとても狭き門なのも特徴。

 個性派は、人数が多いAKBグループではメンバーのキャラ付けがとても大切。バラエティー班、ダンス、趣味や特技を生かしてお仕事している独自路線もいる。ここは新規グループの1期生のメリットが大きく、後から入ると先輩のキャラクターが確立されていて、枠が埋まっていたりすることも。

 神対応アイドルは、公演やSNSなどすべてのことでサービス精神が旺盛で、ファンの満足度が高い活動をしている。交流の深さに重点を置くので日々の対応での地道な努力の積み重ねが大切。

講演する田北香世子さん
講演する田北香世子さん

キラキラあきらめ個性派、神対応で

 三つのタイプについて田北さんは「正統派、個性派は自分の力が先行し、ファンが付いてくる感じですが、神対応アイドルはファンと力を合わせて、一緒に上を目指すのが大きな特徴です。ファンの押し上げがあってこそです」と語ります。

 田北さん自身は「あこがれていたのはキラキラしているとか、かわいいといった正統派。最初は正統派で活動できたらいいなと思ったのですが、うまくいかないことも多く、難しいかなと思いました」と明かします。

 「では、と考えて、個性派や神対応として試行錯誤して頑張っていくのが大事だと。アイドルが本当に好きなので、自分の強みにできるかなと考えて、SNSで語ったり、お仕事につなげるように頑張ったりしています」

 大事にしているのはファンとの交流だと言います。「握手会、SNSで満足してもらえるようになれたらいいなと。相手にだけ送っているような感覚になるプライベートメール(有料サービス)もよりメンバーとの距離の近さを感じさせ、深い話を伝えられるので、力を入れています」

 そして常にブレークする準備をしていることも大事だそうです。

 「AKBはどんなきっかけでチャンスになるか分からない。ふとしたきっかけでスポットライトを浴びたり、報われたりする。光が来たときに、求められていることを実行する行動力や積極性がチャンスをつかめるかどうか、なので大事と思っています」

パネルディスカッションで話す田北さん
パネルディスカッションで話す田北さん

「ファンをお裾分けしてもらいましょう」

 SNS上の流行をデータ化して企業などに提供しているホットリンク。分析の専門家である榊剛史さんは、計算社会科学の手法を使ってSNSのデータを分析すれば「ファン獲得の戦略づくりに役立てることができる」と言います。

 「発信主の属性(男女、年齢層、好み)などが推定できる。アイドルのファンの言動の分析も出来るので、ファンについてより深く理解できます」

 実際、榊さんたちがAKB48グループのメンバー200人以上が発信している「グーグルプラス」の発信内容やコメントなどを分析すると、ファンの熱心度が見えてきたそうです。

 「選抜総選挙で上位メンバーは、そのメンバーにだけ反応しているメンバー固有のファンの割合が高く、下位メンバーだと多くのメンバーに反応しているファンの割合が高い傾向があった」

ホットリンクの榊剛史さん
ホットリンクの榊剛史さん

 SNSからはファンの行動も可視化されます。

 榊さんは「一緒に行動していることが多い同じチームや同期のメンバーでは、ファンの移動も起こりやすかった。逆にファンの共有も可能になるということです」と話します。

 研究結果を踏まえ、榊さんは、ほかのメンバーに絡んでいくことで「ファンをお裾分けしてもらいましょう」と提案したことがあるそうです。

 田北さんのツイッターの発信について、榊さんが分析したところ、ファンらの反応は朝と夕方が多いのに、ツイッターでの発信は主に夜。「発信時間に工夫の余地があるかもしれない」とのアドバイスも。また、他のメンバーの写真をアップすると、そのメンバーのファンも見るためか、反応が良い傾向も伺えたということです。

ステージで議論をする田北さん、石井さん、榊さん(左から)
ステージで議論をする田北さん、石井さん、榊さん(左から)

課題は「ネットに露出した時の反応」

 石井教授は「ヒット現象の数理モデルによるAKB総選挙予測」を報告しました。

 石井教授は、人々の興味、関心には三要素があると指摘します。

(1)広告宣伝
(2)友人らからの情報(直接コミュニケーション)
(3)周囲のうわさなど(間接コミュニケーション)

 この三要素の時間的な変化を数理モデルを使って解析すると……大ヒット映画は公開直後から公開後半になるにつれ、間接コミュニケーションが大きくなることが見えてくるそうです。

 石井教授は「AKB48グループの選抜総選挙でも、間接コミュニケーションの割合が大きいほど浮動票を広く集められ、上位に来ると考えられる」と言います。

 実際、石井教授は、昨年の総選挙でも上位5人を「大体当てた」そうです。ただ、6位以下は、票数が接近しており、予測がかなり難しいそうです。

 石井教授は「田北さんの場合、直接、間接コミュニケーションともかなりよくてコアファンには人気でファン層拡大の力はある。一方、ネットに露出した時にファンの反応が弱い点が課題です」と分析しています。

石井教授、ホットリンクの榊剛史さん、神戸大の柳川隆 先端融合研究環・副環長(左から)
石井教授、ホットリンクの榊剛史さん、神戸大の柳川隆 先端融合研究環・副環長(左から)

「ツイッターとメール、使い分け」

 後半のパネルディスカッションには、劇場公演大好きという神戸大先端融合研究環の柳川隆副環長も加わり活発な意見が交わされました。

榊さん「投稿をしたら反応を分析するのが大切。複数の投稿をみて、どんな反応をしているのか見てもらえればいいと思います」

石井さん「田北さんはネットの露出があった時の反応が低いのが唯一問題ですが、『神対応』が周囲に伝わると反応が出てくるのではないかなと思います」

田北さん「私が仲のいいメンバーや卒業したメンバーのファンが私の握手会に来てくれることもあるので、交流を深めるのは大切だと思います」

石井さん「メンバーはネット上の順位予測を見たりしますか。怖いから見ないのでしょうか?」

田北さん「人それぞれだと思います。私はすごくネットを見ていたので耐性があるというか、一つの声として受け入れられるので、見ています」

榊さん「ソーシャルメディアはツイッター、インスタグラムなど色々ありますが何が使いやすいですか?」

田北さん「拡散力はツイッターがダントツかなと思います。逆にプライベートメールは見ている人は少ないコンテンツだと思うんですが、その分、本当に伝えたいことを伝えられる。対極的なこの二つはなくてはならないです。メリット、デメリットがあるので、使い分けていければと思います」

柳川さん「(瀬戸内海沿岸の7県を舞台に船上劇場で公演を行う予定の)STU48に来ませんか。岡田奈々さんが兼任でキャプテンになって、田北さんが副キャプテンなら西日本から大きな風が吹くのではないでしょうか?」

田北さん「HKT48の指原莉乃さんが支配人兼任で、奈々さんがキャプテンなら私としてもすごい心強い布陣というか、いい方向になるなと思っていたので、大尊敬している奈々さんと何かをやり遂げる、色がついていないグループで作り上げるならすごい楽しみです。考えたことなかったですが、もしお声がかかれば」

シンポジウムの様子
シンポジウムの様子

ところで、田北さんが招かれたワケ

 ところで、数あるAKB48グループのメンバーから、なぜ、田北さんを招いたのでしょうか。シンポ終了後、主催した経済経営研究所の上東貴志所長に尋ねると、こんな答えが返ってきました。

 「計算社会科学という言葉はまだ知られていないので、多くの人に知ってもらいたいと思いました。そして、田北さんはとても話すのが上手で、頭もいい一方で、選抜総選挙では苦戦している状況がある。今回のシンポはお互いメリットがあるかなと思いました」

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