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「鳥フェス」地味に大盛況 鳥好き「不遇の時代」経て再び表舞台へ

「鳥フェス」地味に大盛況 鳥好き「不遇の時代」経て再び表舞台へ マイノリティーならではの濃い世界

身も心も鳥になりきって記念撮影を楽しむ鳥好きたち。オニオオハシをモチーフにした松江市の花鳥園「松江フォーゲルパーク」のマスコットキャラを囲んだ
身も心も鳥になりきって記念撮影を楽しむ鳥好きたち。オニオオハシをモチーフにした松江市の花鳥園「松江フォーゲルパーク」のマスコットキャラを囲んだ

目次

 「犬の日」「猫の日」などと日々盛り上がっている犬好き、猫好き界ですが、「鳥好き」の話題はなかなか聞きません。あまり知られていない鳥好きですが、マイノリティーならではの濃い世界が育っています。ここ数年は特に、全国各地で鳥カフェや鳥フェスなどを開き、じわじわと表の世界にも姿を現しつつあるのです。知られざる鳥好き界をご紹介します。(朝日新聞松江総局記者・富岡万葉)

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「なんでそんなに太いんや?ん?」

 記者は、実家で文鳥を10羽以上飼育する鳥好き。エサを部屋にまき散らかされても、髪や肩にフンをされても気になりません。丸々太った体が指に飛び乗ってくるだけで満足できます。

 指にとまった文鳥がリラックスして目をつぶる瞬間のために何分も動かずに石と化してみたり、がまんできずに手の中に閉じ込めて思いっきりにおいを嗅いだり。話しかけると鳴き声で答えるので退屈しません。

 不機嫌でも、文鳥たちに「なんでそんなに太いんや?ん?」などと話しかけていると、いつのまにかイライラもおさまっています。

記者の実家の文鳥たち。写真も慣れたものでカメラ目線をくれる
記者の実家の文鳥たち。写真も慣れたものでカメラ目線をくれる

「文鳥のにおいがするアイス」だとっ!

 家族そろって鳥好きの記者ですが、鳥好きの友だちはいません。「鳥って目リアルでキモない?ハトとか」「生理的に無理やわ」という声を周りから聞くこともあり、鳥が好きとは言い出せませんでした。

 先日、ひっそりとネットで鳥の写真を眺めていたところ、「鳥フェス」という言葉が目に入りました。鳥好き作家による鳥グッズの即売会、鳥好きが集まる祭典といいます。

 「文鳥のにおいがするアイス」というあおり文句につばを飲み込みながら、別タブでググります。

 とりあえず値段を確認し、その月の生活費の残りと貯金残高を頭の中で計算します。買い占めてクール宅配便で実家に送れば、記者のかわいい妹も喜ぶでしょう。



鳥、鳥、鳥、汗をかくほどの熱気

 2月中旬。早速足を運んだのは、神戸市で開催された「鳥フェス神戸2017」。飲食店を貸し切りにした会場は、汗をかくほどの熱気です。小学校の教室を細長くしたような狭い店内には鳥グッズを売る約10ブースが並びます。

 キーホルダーやぬいぐるみといった小物やメモ帳などの文具、モバイルバッテリーや便座カバーなどもあります。見渡す限りが鳥、鳥、鳥です。

インコをイメージした入浴料「Inこの湯」

 さっそく記者も、熱気の中心へ。人混みをかき分け、かき分け、ブースに近づきます。

「このモミ心地まさに『文鳥』 迷菓ぶんちょう」
「インコイメージ入浴料Inこの湯 あらやだボディーがインコクサイ!」
「早く帰ってインコ揉みたい」

 商品のうたい文句に思わず足が止まりました。さすがは鳥好きの祭典、ツボを心得ています。

 鳥をもんだり、鳥のにおいをつけたりしたいなどという感覚は、鳥好きにしかわからないでしょう。



「文鳥を再現した昆布茶」ゲット

 この日、記者がゲットしたのは……

・パンツをはく白文鳥を描いた額縁入りの絵
・スズメ型のアイピロー(中に小豆が入っていて、電子レンジでチンして疲れ目を温める)
・インコや文鳥がオートバイに乗って出かけるパラパラ漫画付きメモ帳
・手のひらサイズのコロコロした文鳥のぬいぐるみ
・昆布臭がするとされる文鳥を再現した昆布茶
・インコがびっしり描かれたバスタオル
・文鳥の政治家が「毎月愛鳥週間を!」とマニフェストを叫ぶ様子を表した「鳥政党シリーズ」のA4ファイル

などなど。

インコ臭さはじける「インコクサイダー」。「チーズケーキを食べながら梅酒を飲んだような」インコの風味を忠実に再現した
インコ臭さはじける「インコクサイダー」。「チーズケーキを食べながら梅酒を飲んだような」インコの風味を忠実に再現した

LINEスタンプ、コラボケーキも

 飲食スペースもすごい人だかりです。インコのオムライスや人気のLINEスタンプ「ふろしき文鳥」とコラボしたケーキがテーブルに並んでいます。写真撮影に夢中で、みんななかなか口をつけません。

 奥には、朝日新聞デジタルで写真特集「シマエナガちゃん」コーナーを持つ写真家小原玲さんの姿が。サインをもらってファンもうれしそうです。

 小原さんによると、野生の鳥の場合は、飛んでくる方向や場所を考えて、動かず待ち伏せするとうまくいくようです。



男性の「カミングアウト」問題に「うんうん」

 女性が圧倒的に多い中、男性の姿も。佐賀県のグッズ作家かんたろうさんのブースで扱っているのは、Tシャツやファイル、バッジなど。鳥のドアップ写真を使ったグッズ以外にも、鳥を家紋風に表現したステッカーなどがあります。

 かんたろうさんは大型インコ15羽と暮らし、「フンまみれでも気にしない!」という猛者ですが、世間へのカミングアウトは女性より難しいといいます。

「女性なら鳥グッズもアクセサリーって言えるけど、男だとそうはいかないじゃないですか」
「そうそう」
「こういうパッと見てわからないものでアピールするのも一つの手ですよ」

 中高年の男性客がうんうんとうなずいています。

鳥好きに潤いを与えた功労者

 2日間でのべ千人が訪れた今回の鳥フェス。主催は、東京や大阪で4店舗を展開する「ことりカフェ」。神戸市の「とりみカフェ ぽこの森」も協力しています。どちらも鳥を眺めながら食事ができるカフェです。

 ことりカフェでは、鳥の「スタッフ」と触れ合うこともできます。ホームページを見るだけでも、鳥好きにはたまりません。

 ぽこの森を経営する梅川千尋さん(37)は、鳥好き界では名の知れた人。鳥好きが集まるイベントを作ろうと声を上げた立役者で、点々としていた鳥好きに潤いを与えた素晴らしい功績の持ち主です。

「とりみカフェ ぽこの森」のブースで、鳥の帽子をかぶって接客する梅川さん。お客さんの話に「素晴らしインコ!」などと相づちを打っていました
「とりみカフェ ぽこの森」のブースで、鳥の帽子をかぶって接客する梅川さん。お客さんの話に「素晴らしインコ!」などと相づちを打っていました

不遇の時代、鳥インフルに高齢化

 今でこそ大盛況の鳥フェスですが、鳥界には不遇の時代もありました。

 梅川さんによると、05年以降に大流行した鳥インフルエンザが、鳥にマイナスイメージをつけました。同時に、街中にあった個人経営の鳥屋も高齢化が進んで激減したようです。

 内閣府が実施する世論調査によると、鳥の飼育数は調査が始まった1979年当時は犬の次に人気の37.6%でしたが、その後は減り続け、2010年には犬、猫、魚類に負けて全4種類中最下位の5・7%まで落ちています。

 記者は不人気の時代しか知りませんが、昔は人気者だったんですね。

1959年、天才九官鳥として話題になった「キューちゃん」。「ハトポッポ」を歌い、「アラアラ、イイコダ」と赤ん坊のあやし方まで心得て最近は「ハロー」で始まる英会話までやる、と報じられた
1959年、天才九官鳥として話題になった「キューちゃん」。「ハトポッポ」を歌い、「アラアラ、イイコダ」と赤ん坊のあやし方まで心得て最近は「ハロー」で始まる英会話までやる、と報じられた 出典: 朝日新聞

最初はグッズ作りから

 「花鳥風月という言葉にあるような奇麗な物の象徴としての鳥は消えつつありました。鳥を扱う店も減り、このままでは鳥をめでる文化や飼育の技術が途絶えてしまう」と危機感を抱いていた梅川さん。

 07年にぽこの森をオープンさせたのを機に、知り合いの鳥好きやイラストレーターなどに呼びかけ始め、数年かけて、個人の鳥好きや作家たちが関西を中心に集まりました。

 最初はグッズ作りから。鳥グッズがほしいけど、市販の既製品では満足できないという鳥好きたちが、自前でグッズを作り始めました。

 既製品は決まった型を使い、色を変えて違う種類の鳥を作り分けるものが多く、例えばインコと文鳥という全く異なる種類の鳥が同じ顔でできあがってしまいます。

 鳥好きたちは、鳥の目や羽の色、脚の指の数、表情や体の膨らみ方など、既製品では表現されない部分の再現にこだわったといいます。



飼育の大変さも議論

 10年当時に30人ほどだった協力作家は200人に。今では全国各地で年に約20件の鳥イベントが開かれるほど、コミュニティーは成長しました。

 鳥を飼っているという人も増え、人気が目に見えるようになってきた鳥好き界。一過性のブームに終わらせたり、鳥の飼育放棄につながったりしないよう、鳥好きたちも慎重です。

 フェスでは、アヒルなど珍しい鳥を飼っているが飼育の大変さを紙にまとめて安易に飼わないでと伝えていました。

 自分の死後、長生きする大型の鳥を誰に託すのか。飼育費用はどうするのか。鳥好きたちは、そんなまじめな話も避けずに話題にします。

 かわいいと浮かれているだけでなく、ちゃんと鳥のことを真剣に考えている人ばかりです。

文鳥とセキセイインコの色みなどをイメージした炊き込みご飯。常温でも食べられるため、非常食としても使えるという
文鳥とセキセイインコの色みなどをイメージした炊き込みご飯。常温でも食べられるため、非常食としても使えるという

次世代の育成も

 梅川さんは、動物の専門学校に通う学生を研修生としてカフェに迎えています。1カ月間、飼育や店の手伝い、経営やイベント運営の進め方を失敗談を交えて教えます。

 鳥界の不遇の時代は、鳥を扱う店がビジネスの知識や経験を後進に伝えてこなかったことも一因だと考えるからです。

 昨年の研修生で東京動物専門学校に通う西幸樹さん(20)は「飼育方法は学校で勉強できるけど、世間に出て、ニッチな分野でどうやっていくかはここでしか教われない」と手応えを感じています。将来は好きな料理と鳥の飼育を両立できるカフェを持ちたいと夢を話してくれました。

 取材当初は鳥フェスの楽しさに興奮するばかりだった記者。取材を通して、現在の盛り上がりにたどり着くまでには地道な努力が積み重ねられた歴史があると知りました。

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