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「人食いバクテリア」経験者が語る壮絶体験記 「秒で多臓器不全」

「人食いバクテリア」の原因となる細菌・A群溶血性レンサ球菌
「人食いバクテリア」の原因となる細菌・A群溶血性レンサ球菌 出典: 国立感染症研究所提供

目次

 それは、何の変哲もない「水ぶくれ」から始まりました。「人食いバクテリア」と呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」に感染した私は、2日後、多臓器不全の危機に陥り、その進行の早さを身をもって体験することになりました。現在は治療法が確立しているこの病気ですが、2016年の患者数は492人と、過去最多を更新しています。思い出すだけで冷や汗が出る治療の日々……感染を防ぐためにはどうすればいいか? 専門家に取材しました。

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2016年は過去最多の492人

 「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は「溶血性レンサ球菌」という細菌に感染することで引き起こされます。

 この細菌の中には、主に子どもに感染して、のどに炎症を起こすことで知られているものもあります。実は、決して特別な菌ではないのです。

 ただ、例外的に劇症化した「人食いバクテリア」は、一気に症状が進行します。感染すると、全身に細菌が回ります。

 手足の筋肉が急激に壊死するほか、多臓器不全になることも。手足にある傷口から菌が入り込む可能性が考えられていますが、なぜ症状がひどくなるのかはわかっていません。

 国立感染症研究所によると、2016年に報告された患者数は492人、現在の調査になった1999年以降で過去最高の数値です。

 2011年以降は、200人前後でしたが、2014年に268人、15年に415人と患者数が急増。2017年になってからの1カ月ほどで36人の患者数が報告され、依然として注意が必要になっています。

 患者数の多くは高齢者で、60代以上の患者数が7割近くを占めているのが特徴です。

それは水ぶくれから始まった…

別名TSLSとも呼ばれる劇症型溶血性レンサ球菌感染症の診断書。2014年秋に感染
別名TSLSとも呼ばれる劇症型溶血性レンサ球菌感染症の診断書。2014年秋に感染 出典: 朝日新聞社

 私が「人食いバクテリア」にかかったのは2014年の秋、始まりは足にできた水ぶくれからでした。

 水ぶくれは、慣れない靴を履いていたためなのか、親指にできました。アルコールで消毒をしましたが、なかなか治らず、次第に大きくなっていました。
 
 1週間ほどして、いつのまにか黒ずんできた水ぶくれ。すると襲ってきたのが、急激な悪寒でした。

 夜だったために、すぐに布団に入りましたが、熱はぐんぐん上昇。炎にやかれるような感覚に襲われ、体温を計ってみると41度近くに。冷たいシャワーを浴びても、全く冷たいと感じられないほど。ここまで「生命の危険」を感じたことはありませんでした。
 
 翌朝になると、高熱から意識はもうろう。病院に運ばれて、すぐさま入院が決まりました。

 全身に腫れが広がったほか、高熱にうなされました。腎臓や肝臓にも炎症が現れて、多臓器不全になりかけました。下痢もひどく、一人では立ち上がることすらできませんでした。

 想像を超える進行の早さでしたが、点滴で注入した抗生物質が効いたため、4日後には高熱が下がり、ようやく一難が去りました。

 結局、3週間以上、入院しました。退院直後は10分程度話すだけでもぐったりするほど、体力は地に落ちてしまいました。感染から2年半がたち、今は、人並みに働けるように回復しています。

放っておきがちな足のケア

「人食いバクテリア」の原因となる細菌・A群溶血性レンサ球菌
「人食いバクテリア」の原因となる細菌・A群溶血性レンサ球菌 出典: 国立感染症研究所提供

 今も思い出すだけで、身震いする「人食いバクテリア」の日々。日常からできる予防法はないのでしょうか? 東京女子医科大学感染症科教授の菊池賢さんに聞きました。

 菊池さんは「人食いバクテリア」をこれまでに10例ほど診てきました。よく手足から感染すると言われていますが、菊池さんは「足の傷から感染するケースがほとんど」といいます。

 家族と温泉旅行に行き、転んで足に傷を作った人が、骨は折れていないのに発熱に。気がつくと、足がパンパンに腫れていた、といったケースがあったそうです。

 「手と違って、足のケアは放っておきがち。それが、足からの感染が多くなっている理由だと私は考えます。発熱したときは、症状が進んでいる段階。傷ができた時は乾燥させたり、すぐに消毒したりして、まめなケアを心がけてください」と語ります。
 
 実は「人食いバクテリア」には、抗生物質のペニシリンが効果的で、治療法は確立しています。菊池さんは、できるだけ早く発症に気づいて、病院にかかり適切な治療を受けることが重要だといいます。

 「とくに高齢者、中でも寝たきりや認知症の人は足のケアに目が向かない可能性があります。少しでも足の傷に気をつけてください」

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