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南京市、なぜ「日本人向け観光」アピール?「歴史問題と矛盾しない」
2016年12月、東京都内で中国の南京市による初めての日本人観光客向けのイベントが開催されました。中国の四大古都と呼ばれ、2500年の歴史を持つ南京ですが、日中戦争中には「南京事件」が起きるなど激動の歴史を歩んできました。日本人にとっては、観光というイメージだけではない南京市がなぜ、プロモーションに力を入れるのでしょうか? 来日した関係者に話を聞きました。
南京市は江蘇省の省都で大都市への交通網が整備されています。上海へは300キロメートルという距離にあります。
「南京豆」「南京錠」「南京玉すだれ」など「南京」がついている単語もあり、日本とは古くから縁がある都市でした。
三国志で有名な中国の三国時代には、呉の孫権が南京を都にしています。
その後の南朝・北朝時代には南朝の都だった時期が長く続き、明王朝の都、中華民国の首都でもありました。
一方、日中戦争中には「南京事件」が起きます。1937年12月13日に旧日本軍が中華民国国民政府の首都だった南京を占領し、捕虜や市民を殺害するなどした事件として知られています。
12月にあったイベントには、中国から現地の旅行会社の関係者が出席しました。日本の旅行会社向けの説明では「中山陵(孫文のお墓)」「孫権の墓」「夫子廟(孔子を祭っている廟)」「玄武湖」「鶏鳴寺」など南京市の代表的な観光地が紹介されました。
また、新しい観光スポットとして、牛首山文化観光区にある三蔵法師の舎利を奉納する新しい建物「仏頂宮」や、瑠璃の大報恩寺タワーなども説明されました。
一方で、日中戦争に触れた場面はありませんでした。
なぜ、日本向けのインバウンドイベントが企画されたのでしょうか? 「中国青年旅行社」の張心義さんは「インバウンドとアウトバウンドのアンバランスさがあった」と説明します。
張さんによると、2015年から2016年にかけて、中国から来日した観光客は200万人増えて、600万人になりました。一方、日本から中国に旅行する訪中客は190万人程度で横ばいが続いています。
南京市の観光協会である「南京市観光旅行委員会」の李佳さんは「南京を訪れる外国人観光客では、日本人が一番多い。南京市としても日本市場を重視しており、牛首山文化旅行区などの新しい観光スポットができたタイミングでイベントを開催しました」と話します。
2017年は日中の国交正常化45周年の記念の年にあたります。イベントに参加した中国の観光業界は「記念の年に向けて、南京と東京での交流などを深めていきたい」と意気込んでいます。
ただ、2017年は、南京事件から80年の年でもあります。イベントの関係者の1人は「観光と歴史問題は必ずしも矛盾しているわけではありません。観光を通じて、民間の友好につなげていきたい」と語ります。
明王朝の時代から残る南京城の城壁「台城」の修復には、日本の友好団体や日本の市民からの義援金があてられたこともあります。2017年には「博愛の旅」というイベントが企画されています。これは、孫文が掲げた「博愛」の精神にもとづき、1000人の日本人を南京に招待して、交流を進めるというものです。
南京市がある江蘇省の観光事業を担当する関係者によると「江蘇省を訪れる日本からの観光客の数は長年でトップを占めてきました。しかし、2016年には韓国に越される見通しです。2017年に日本が首位に戻ってほしい」と語りました。
日本の旅行会社は、どう見ているのでしょうか?
旅行会社クラブツーリズムは、「千島の菜の花畑を小舟遊覧と旅情あふれる江南水郷めぐり6日間」というプランに、上海・無錫・揚州・南京・蘇州の5都市の観光プランを盛り込みました。春の菜の花のシーズンと合わせ、2017年4月上旬に実施する予定です。
南京では、世界遺産の明孝陵、南京博物院、中山陵、中華門、総統府などの観光スポットが予定されています。一泊滞在するほか、南京ダックなどの南京料理も堪能できるそうです。
クラブツーリズムの担当者は「この5、6年、南京観光コースの実績があまりありませんが、(南京には)ブランド力もあるので、潜在的なニーズも考えて南京を組み込んだ新商品を開発しました」と話していました。
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