地元
「名古屋嫌い」真相はこれだった…「本当の田舎ならシャレにならん」
「最も魅力がない街」「日本一の嫌われ都市」。最近、名古屋がそんなフレーズで取り上げられています。みそ煮込みうどんや手羽先料理といった「なごやめし」はおいしいし、住みやすい街なのに、なぜ――。名古屋在住の記者が、少し複雑な気持ちで調べました。(朝日新聞名古屋報道センター記者・日高奈緒)
「名古屋、ダントツ最下位」「『地元愛』薄い名古屋市民」。
新聞各紙やテレビが報じ、ネットメディアでも紹介されたのが、名古屋市が公表した都市ブランド・イメージ調査の結果です。
調査は6月、東京や横浜、名古屋、京都、大阪など主要8都市の住民にインターネットを使って尋ねたものです。名古屋のイメージ戦略に生かそうと調べましたが、「最も魅力的に感じる都市」の問いに、名古屋を選んだ人はたったの3%。衝撃の最下位でした。
名古屋以外では自分の住む街を選んだ人が最も多かったのに、名古屋では東京や京都と答える住民の方が多く、名古屋を選んだのは15.8%。「名古屋に魅力がない」という印象を広げかねない結果に、「ここまで低いとは思いませんでした」と、市の担当者も戸惑っているようでした。
雑誌では、刺激的な見出しで名古屋を取り上げる記事が相次ぎました。
週刊ポストは8月、「名古屋は嫌いだ!」とする特集を掲載。「『台湾ラーメン』なのに名古屋名物」「モーニング文化の発祥は名古屋ではない」といった記事を載せました。
週刊プレイボーイも9月、「名古屋を襲う空前の大ピンチ!!」と銘打った記事を載せました。「『魅力のない街』ワーストワンの屈辱」「名古屋人は『名古屋メシ』を食わない!?」など5つの「ピンチ」を紹介。編集部によると、中日ドラゴンズや名古屋グランパスの苦戦をきっかけに企画したそうです。
「金のシャチホコに名古屋弁、B級グルメ。名古屋は突っ込みどころがメジャーなので、ネタとして面白い」と週刊プレイボーイの松丸淳生(あつお)副編集長は言います。「名古屋は豊かな土地柄。他の地域と違って、たたいてもいじめではなく『いじり』で済みます」とも。読者の評判は上々だったとか……。
そんな状況を受け、名古屋市で活動をしているNPO法人「大ナゴヤ大学」が9月、「魅力のない街? 【名古屋】について考える。」と題したシンポジウムを開きました。主催者は「名古屋には面白い人もたくさんいるのに、調査結果には納得がいかない」との思いで企画したそうです。パネリストには、名古屋のカルチャー事情に詳しいウェブマガジンの編集者や名古屋市の職員などが登場しました。
「住んでいる人が街の良さに気づいていない」
「もっと地元が自信を持たないと」
「東京や大阪に劣等感を持ちすぎ」
「東京で流行しているものに飛びついているだけじゃ、面白くないと思われてもしょうがない」
日頃から名古屋を盛り上げようと活動しているパネリストたちからは、耳の痛い意見も出ましたが、名古屋市やその周辺から来た参加者たちはうなずいたり、考え込むように腕を組んだりして、耳を傾けていました。
実際に名古屋に住む人は、この状況をどう思っているのでしょうか。愛知県常滑市生まれで、大学卒業後、名古屋市内の出版社での勤務を経てフリーライターとして活躍する大竹敏之さん(51)に聞いてみました。
――名古屋に魅力がないというショッキングな調査結果が出てしまいました
「観光って名古屋が一番苦手な分野です。こういう調査結果で悪い結果が出てしまうのはある程度仕方ない。名古屋には地元で生まれ育ち、大人になっても住み続ける人が多い。もし『住みやすさ』といった評価項目があれば、結果は違っていたかもしれません」
――見どころがまったくないとは思わないのですが、なぜ観光が苦手なんでしょうか
「元々、製造業で潤ってきた地域です。観光で稼ぐ必要もそんなにないし、アピールしなくても困らなかったという背景もあるのではないでしょうか」
――地元の人におすすめを聞いても「何もないわ」と言われることが多い気はします
「名古屋の人は自己PRが得意じゃないんですよね。自虐とか謙遜が過ぎるというわけではないと思いますが、何となく気恥ずかしさがあるのかもしれません」
――名古屋が「ネタ」にされている気もします。なぜなんでしょうか?
「東京に近くて、街の個性も強いから、変わった点を見つけやすい。経済的には豊かなのに、どこか田舎っぽいところもある。そんなギャップもツッコミどころです。1980年代ごろ、タモリさんなどのコメディアンが名古屋をネタに取り上げることが多かったんです。『食べ物が変わってる』とか『みゃーみゃー言ってる』とか。そんな扱いをされ、コンプレックスを持つ世代が名古屋にはいると思います」
「ひと昔前にはローカル性や地方らしさをバカにするという風潮がありました。『いまだにそんなことをする人がいるんだなあ』という気持ちもありますが、本当の田舎に対してやったら、しゃれにならない。経済的にも豊かな名古屋がターゲットにされてしまったのかな、とも思います」
3年前に名古屋に赴任が決まったとき、周りの反応は「名古屋城以外に何かあるの?」「みそ味に飽きそう」などなど。散々でした。
しかし、実際に名古屋に住んだことがある先輩記者らからは「みそ煮込みうどん、今も無性に食べたくなるんだよね」「都会過ぎないので疲れない」「ちょっと足を伸ばせば海も山もある」などと好意的な意見。期待しながらやってきました。
なのに、地元の人に名古屋のおすすめを聞いても、つれない返事。ちょっとがっかりだったのです。
ところが、実際に住んでみるとそんなことは気になりません。地下鉄はそんなに混まないし、買い物にも困らない。実に住みやすいのです。なごやめしだって今のところ飽きてはいません。
住みやすさのせいか、愛知県は地元大学への進学率は全国一。就職先も多くあります。名古屋に長く住んでいると、良い面が当たり前すぎて気づかなくなるのかもしれません。
「名駅」(名古屋の人は名古屋駅をこう呼びます)での乗り換えに焦る、地下街で迷子になるなど「やれやれ」と感じることもありますが、「結構いいですよ」と陰ながら伝えたい。そう思っています。
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