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公務員は「恵まれている」? あるLGBTが選んだ“告白”と“結婚”

公務員のAさんとパートナーが大事にしているぬいぐるみ。LGBTの象徴であるレインボーのグッズをまとう
公務員のAさんとパートナーが大事にしているぬいぐるみ。LGBTの象徴であるレインボーのグッズをまとう 出典: 朝日新聞

目次

 国と地方の公務員の数を合わせると、約333万人。当たり前ですが、この333万人の中にも、LGBT(性的少数者)はいます。ここ数年、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、会社の福利厚生を受けられるようにする企業が出てきています。お堅いと言われる公務員の世界でも、ごく一部ですが、認められてきています。あるゲイの公務員男性に、話を聞きました。職場でカミングアウトしていますか? 周囲の理解はありますか? (朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

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自治体職員のカミングアウト

 30代のAさんは、東京都世田谷区役所の男性職員です。
 入庁した最初の年に、自分がゲイであることを、職場の同僚に話したそうです。

 「役所は堅いというイメージがあるみたいで、『よく言えたね』って友人から言われます。でも僕の場合は、そうでもなかったですね。職場の人間関係がよくて、居心地がよかった。もともとカミングアウトすることに抵抗が少ないので、両親や友人に話していました。職場でも、ウソをついて同僚と接するより、正直でいたいと思いました」

Aさんとパートナーが暮らす部屋。クッションがふたつ並ぶ
Aさんとパートナーが暮らす部屋。クッションがふたつ並ぶ 出典: 朝日新聞

 世田谷区は2015年11月、区内で生活を共にする同性カップルを「結婚に相当する関係」と公的に認める制度を始めました。

 そして2016年春からは、区職員に対しても、待遇改善に取り組んでいます。
 区職員からなる「区職員互助会」が、同性のパートナーがいる職員に対して、結婚祝い金の支給ができるよう規則を変更したのです。
 自治体職員に認めたのは、全国初と言われています。
 その後、那覇市が続きました。

2015年11月、世田谷区で「パートナーシップ宣誓書」に署名し、受領証を手に会見した同性カップルたち
2015年11月、世田谷区で「パートナーシップ宣誓書」に署名し、受領証を手に会見した同性カップルたち 出典: 朝日新聞

 Aさんには、共に暮らす年上のパートナーがいます。
 会社員で、LGBTのイベントで知り合いました。

 「全然タイプじゃなかったんですけど(笑)」

 照れくさそうに、記者に紹介してくれました。

 5月、Aさんは早速この結婚祝い金の申請をしました。
 申請書を、見せてもらいました。丁寧な字で、ふたりの名前が書き込まれています。

渋谷区役所で「パートナーシップ証明書」を受け取った増原裕子さん(左)と東小雪さん
渋谷区役所で「パートナーシップ証明書」を受け取った増原裕子さん(左)と東小雪さん 出典: 朝日新聞

 Aさんは言います。

 「運がよかったと思います。民間企業を含め、同性カップルを認める職場はまだ少ないですから」
 「お金がほしいわけじゃ、ないんですよね。『同性カップルのあなた方は対象外です』と排除されている感じ、社会に祝福されていない感じが、切ないんです」
 「男女のカップルなら誇らしげに『この人と一緒に歩んでいきます』と言えるのに、隠さなくてはならないのが、悲しい。カミングアウトしていなかったら、本人たち以外誰も知らない関係になりますから、本当に心細いと思います」

小さなウソを積み重ねる

 Aさんがパートナーと同居しはじめたのは、1年前。
 
 本当は、世田谷区内に住みたかったのですが、いい物件が見つからなかったそうです。
 「いいな」と思った区内の物件は、「男性同士の同居は、親族以外はNG」と言われました。

 ようやく見つけた23区内のアパートに入居する時、契約書にはパートナーのことを「友人」と書きました。
 「こういう小さなウソが積み重なって、生きづらくなっていくんですよね」と、Aさんは言います。

5月に東京・渋谷で開かれたLGBTへの理解を求めるパレード
5月に東京・渋谷で開かれたLGBTへの理解を求めるパレード 出典: 朝日新聞

 世田谷区は現在、結婚祝い金以外にも、弔慰金の支給など、同性のパートナーがいる職員への待遇改善を検討しています。
 
 ただ、他の自治体にはなかなか広がっていません。
 ある自治体職員は「公務員はもともと、給料や待遇で『恵まれている』と批判されがち。世の中の半分くらいが認めるようにならないと、難しい」とこぼします。

 Aさんは、「公務員は横並びの意識が強いですからね。できるだけ多くの自治体が続いてくれたら、流れが変わると思うんですが」と、ため息をつきました。

「東京レインボープライド」に参加したケネディ駐日米大使
「東京レインボープライド」に参加したケネディ駐日米大使 出典: 朝日新聞

 結婚祝い金をもらった後、Aさんは、職場の同僚に「お祝い会をしたい」と言われたそうです。
 ありがたいと思いましたが、断りました。
 「結婚祝い金をもらっても、法律的には二人の関係は何も変わっていません。他人のまま。男女のカップルなら、この状態で『結婚おめでとう』って祝わないですよね。同じように扱ってほしくて」

 ふたりは今後、養子縁組を考えているそうです。
 「夫婦ではなく親子の関係になってしまうけど、現時点で法律的に家族になるにはこれしかない。家族になれないと、法律に守ってもらえませんので」とAさん。
 
 パートナーは、Aさんとの同居を機に、両親にカミングアウトしました。
 Aさんとパートナー双方の両親や兄弟とは、いい関係を築けているそうです。

LGBTを象徴するレインボーフラッグ
LGBTを象徴するレインボーフラッグ 出典: 朝日新聞

「やっぱり公務員は恵まれている」の?

 Aさんに、意地悪な質問をしました。「自分は恵まれていると、思いますか?」

 「うーん……恵まれてる方だとは思います。第一に、LGBTの友人たちを見ると、家族や職場の同僚にカミングアウトできていない人が多い。しかも、同性カップルを認める制度がある職場もまだ少ない。養子縁組をすると名字が変わるので、理解のある職場じゃないと、怖くてできないと思います」

Aさんとパートナーが大事にしているぬいぐるみ。レインボーグッズを身にまとう
Aさんとパートナーが大事にしているぬいぐるみ。レインボーグッズを身にまとう 出典: 朝日新聞

 あなたは、「公務員はやっぱり恵まれている」と思うでしょうか。

 Aさんは言います。

 「他の自治体の職員をしている友人は、『とても職場では言えない』と言っています。世田谷区は都会ですし職員数5千人と大きな組織なので、人間関係が比較的ライトです。僕も実際『カミングアウトして職場に居づらくなったら、異動を希望しよう』と思っていました。仕事の幅も広いので、異動をすれば、ほとんど転職したくらいに環境が変わります。あと、女性比率が多いのも、ゲイにとってはいいかもしれません。『おい、キャバクラ行くぞ!』と強要するような男性社会的な空気が薄いので」

 「ただ、僕がカミングアウトできたのは、公務員だからというより、職場の人間関係が大きかったと思います。『恵まれている』なんて言わずにすむように、誰もが平等に扱われる社会になることを祈っています」

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