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2本脚の犬「すみれ」、新たな飼い主探し 二度見捨てられた過去経て

新たな飼い主を探している柴犬が群馬県にいます。

事故で脚2本を切断し、車いすで散歩するすみれ
事故で脚2本を切断し、車いすで散歩するすみれ 出典: soraさん提供

目次

 新たな飼い主を探している柴犬が群馬県にいます。いったんは動物愛護センターの譲渡会で引き取られましたが、迷子になって事故に遭い、瀕死の状態に。飼い主を特定できずに警察署で2日間過ごし、その後、脚2本と尻尾のほとんどを切断。飼い主は見つかったものの、動物愛護団体のメンバーに引き取られ、まもなく半年が経ちます。そんな「すみれ」の今を取材しました。

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車いすなしでも散歩はできます
車いすなしでも散歩はできます

2本脚でも歩けます


 車から抱えられて降りてきたすみれ。器用に2本脚で立ったかと思うと、そのまま小走りしました。

 「脚を切断した2~3日後には、壁を使って立ったり、走ろうとしたり。本当に元気なんですよ」

 そう話すのは、新しい飼い主が決まるまでの間の「預かりボランティア」として一緒に暮らしている星野ちづるさん(64)。保健所に保護された犬などがすぐに殺処分されないよう、譲渡先が見つかるまで預かっています。

 特注の車イスも作ってもらいましたが、ホイールの音を嫌がるそうで、自分の2本脚で歩くことが多いそうです。

 「これまで何頭も預かってきましたが、脚が2本ないこと以外は他の犬とほとんど変わりません。2週間に一度リハビリに通うなど特別な点はありますが、他の気性の荒い犬だって、それを特別だと考えれば、違いはありません」

事故に遭う前のすみれ
事故に遭う前のすみれ 出典: 群馬わんにゃんネットワーク提供

警察署での2日間


 すみれが最初に保護されたのは2015年12月。通報を受けた高崎市動物愛護センターの職員が市内の河川敷で見つけました。首輪や迷子札は着けていませんでしたが、人に従順で誰かに飼われていたような様子だったそうです。

 今年2月、センターの譲渡会を経て新たな飼い主のもとへ。ところが4月9日、群馬県前橋市内の線路内で大けがをしているところを警察官に保護されました。左の前脚、後ろ脚が失われた状態で、電車にひかれたとみられます。

 飼い主は、すみれがいなくなったことを警察署に届け出ていましたが、身元の特定には至りませんでした。また、保護した警察署が動物保護を担当する前橋市に連絡したものの、土曜日だったため保健所へ話が伝わらず、治療を受けることもできませんでした。

 その結果、警察署内で定期的に様子を見たり、水を与えたりしながら過ごすことに。月曜日に飼い主を特定できましたが、治療を受けられなかった2日間で傷口にはウジがわいていました。

手術を受ける前のすみれ
手術を受ける前のすみれ 出典: soraさん提供

安楽死か、介護か


 飼い主のもとへ戻ったすみれ。譲渡会で引き渡しに立ち会っていた動物愛護NPO「群馬わんにゃんネットワーク」のメンバーが飼い主に連絡したところ、手術を受けさせることができない事情があると説明されたそうです。

 「このままでは死んでしまう」。そう感じた理事長の飯田有紀子さん(54)たちが引き取りを申し出ました。14日に3時間近くの手術を受け、前脚と後ろ脚それぞれ1本ずつと、尻尾のほとんどを切断。1カ月半後には特注の車いすで散歩もできるようになりました。

 「縁あって譲渡にかかわった『すみれ』ですが、私たちが引き取っても、現実の世話や治療費などを考えると迷いもあり、メンバー内でも意見は分かれました。でも『今はそこにある命を救うことだけ。全部後で考えよう』という結論になりました」と飯田さんは振り返ります。

 獣医師からは「安楽死させるか、それとも脚を切断して介護生活を送るか」と言われていましたが、自力で排泄もできるようになり、散歩をするなどして自然を満喫しています。

すっかり元気になったすみれ
すっかり元気になったすみれ 出典: soraさん提供

譲渡先を探す理由


 なぜ、すみれの譲渡先を探すのか? 飯田さんは、こう話します。

 「私たちは預かりボランティアなので、新しい飼い主が見つかれば、その分、新しく保護された動物を預かることができます。でも、それだけが理由じゃありません。すみれには、手間はかかっても、その家族を幸せにする力があるんです。それに、私たちと暮らすよりも、進んで迎えてくれた家族と一緒に暮らすのが、すみれにとっても幸せだと考えているからです」

 新しい飼い主探しについて、星野さんは「『あの辛い思いをしたすみれちゃんを飼いたい』ではなく、手間が少しかかる普通の柴犬として迎えてくれる人を」と考えています。すでに、県内外の数人から引き受けたいと申し出が来ているそうです。

 一連の出来事を通じて、すみれが教えてくれたことがあります。わんにゃんネットワークのメンバーは、口をそろえてこう言います。

 「今できることをやって前に進んでいくことです。過去を振り返らず、後悔せず、常に前へ前へ。すみれの姿が私たちにそう言っているように見えるんです」

群馬わんにゃんネットワークのメンバー
群馬わんにゃんネットワークのメンバー 出典: セブン&アイ出版提供

ネット上に応援団も


 すみれの件を受けて前橋市保健所では、土日や祝日に負傷動物の情報があった場合は、当直から担当者に連絡して判断を仰ぐようにマニュアルを変更しました。

 また、ネット上ですみれの応援団も立ち上がり、手術費や治療費にあてるための寄付も寄せられています。(現在は受付を終了しています)

 これまでの経緯は、群馬わんにゃんネットワークのメンバーが中心となって本にまとめています。タイトルは「二本あしのワンコ すみれちゃん、生きる」。セブン&アイ出版から税別1300円で販売されています。

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