話題
両さん、18歳は1人前ですか? こち亀の土手で考えた「大人の条件」
「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が終わることを知り、葛飾を流れる中川を一緒に歩いた18歳の少年を思い出した。土手に立つ荒井修哉さん(18)。この日、人生で初めての投票を終えたところを撮影した。夏の参院選での注目は、新たに選挙権を得た若者たちだった。いまの18、19歳の姿から、この国の未来が見えてこないだろうか――。取材班のひとりとして、期日前投票所の区役所で彼らを待った。
初日は空振りかと焦り始めた午後4時ごろ。荒井さんはやってきた。白いシャツに黒いズボンは制服? 足元はピンクのサンダルでよく見るとスウェットパンツだ。
浪人生、18歳。用意していた質問に、言葉を探しながら答える荒井さん。政治用語を挟んだ淡々としたやりとりが続く。
政治に関心のある「意識高い系浪人生」の話は聞けたけど、少し不満だった。もうちょっと距離を縮めたかった。
自宅に帰るという道を、一緒に歩くことにした。
その間、荒井さんが政治家志望で、いつか取材を受ける日のつもりで話したのだと教えてくれた。私は政治部の記者だと思われていた。
高校時代は野球部で、主力選手じゃなかったという。私は、学生時代はサッカーに明け暮れ、政治にあまり関心がなかったことを打ち明けた。とりとめのない話が始まる頃には、一回りも年下の荒井さんの素顔が少し見えた気がした。
中川の土手に出ると、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のアニメのテーマソングが頭に浮かんだ。「中川に浮かぶ 夕陽をめがけて~」。日の傾きかけた、ゆるんだ空気と荒井さんを写した。
3日間で取材できたのは6人。「親の言うとおりに投票した」と話す体育大生もいれば、「一票で何か変わるとは思わないけど、みんながそう思ったらまずいから」と語る専門学校生もいた。
留学して国際関係を学ぶという人、定時制の高校に通う人。そこには、6人それぞれの境遇があり、思いがあり、表情があった。触れ合った時間はまちまちだが、まっすぐな18、19歳の姿は、30歳の私の胸に刺さるものがあった。
企画では、3日間、4人のカメラマンが都内4カ所の投票所に、朝8時半から夜8時まで立ち続けた。それらしい若者が投票所から出てくると、すぐさま声をかける。
もちろん断られることもあり、話は聞かせてもらえたものの、名前を聞こうとしたところで、一緒に来ていた家族からNGが出たこともあった。自分の考えや意見を表明し投じる権利を得て、「大人の階段」を一歩上った一方で、親や周囲との関係ではまだ子どもと思われていたり。
「1人前」って何だろうか。18、19歳という年齢の難しさを感じた。
いきなり出会ったカメラマンを名乗る人間に、名前を聞かれ、写真を撮られる経験は、普通の人にとっては珍しい経験だろう。若者であればなおさら警戒されて、1人も取材できないのでは、という私の心配は、いい意味で裏切られた。
時間の限られるなか、1人ひとりと100パーセント全力で向き合えたわけではない。だがそれでも、投票に来た若者の姿や思い、その場の空気感を少しでもリアルに伝えたかった。探り探りシャッターを切った。
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