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選挙ポスターの「ダメなやつ」「イケてるやつ」 プロがぶった斬り
参院選が終わりましたね。全国の街角で選挙ポスターも訴えました。当落の結果とは別に、ポスターの出来栄えはどうだったのでしょう。裏側を知れば、次の選挙の見方が変わるかもしれません。(朝日新聞大阪本社生活文化部記者・松本紗知)
最多の31人が立候補した東京選挙区を、選挙プランナー歴27年の三浦博史さんと分析しました。
選挙結果では断トツの100万票以上を集めた蓮舫さん。ポスターでも高い評価でした。
「背景が黒で、字と顔が浮き上がって見えますよね。名前と顔をビシッと認識させるということで、ポスターの一番の要件を備えています」
黒い背景は、20年前は縁起が悪いと避けられていましたが、ドクター中松氏が最初にポスターの背景に採用したのだとか。白い字や光を当てた顔が立体的に浮かび上がる効果があり、今ではよく見るようになりました。
ただ一点、「ピンクのRの文字は、ちょっと意味が分からない」という指摘も。
自民党で当選した朝日健太郎さんのポスターも、新人ながら高評価でした。
「非常に分かりやすいですよね。経歴、名前、党名がバシッと出ていて。ビーチバレーの写真もあることで、スポーツ選手とすぐ分かる」
そして、ミュージシャンの三宅洋平さん。結果は落選でしたが、ポスターはセンスがいいと大絶賛でした。
「インパクトがあります。王道である名前をピシッと出して、写真も大きく載せている。選挙の大事なところを抑えておきながら、全体であまり選挙ポスターらしくないという点で、斬新だと思います」
「白黒の写真は、アメリカでもよく使われる手法ですが、ノスタルジアというか、人の情を起こさせる効果があります。斜めに切っているのもオシャレですね」
ただ、手前に山本太郎さんの写真がなかったら、シンプルでもっと良かったとのことでした。
そのほか、横粂勝仁さん(無所属新顔、落選)のポスターは「キリッと正面を見ていて、好感度のあるいい写真」、中川雅治さん(自民現職、当選)の写真は「名前と顔がハッキリ出ていて、オーソドックスなポスター」と高評価でした。
選挙ポスターの大前提は、まず「目立つこと」だと三浦さんは言います。
「見落とされないためには、顔が大事です。そして、顔写真のコツは『候補者に写真を選ばせないこと』です」
「男性も女性も、自分の欠点が出ている写真は、無意識に嫌うんです。だから候補者に選ばせると、自分の欠点が出ていない写真を選ぶ。でもそれは、周りからすると、その人らしくない写真。人に選ばせた方が、他人の目から見て一番いい写真になります」
選挙ポスターの顔写真といえば、修整がつきものというイメージもありますが、三浦さんは「修整しないのが僕の基本方針」と言い切ります。
「シミとかシワは人生の年輪ですから。僕は変えません。男性は基本的にメイクもさせない。100枚写真を撮って、若く見える写真を選ぶのはいいいんです。でも、シワやシミを修整して消すのは、一種の経歴詐称でしょ。そういう不自然につるつるした肌を、僕は『ろう人形』って呼んでいます」
とはいえ、修整した写真を使ったポスターはよく見かけます。
「たとえば、有権者の数が少ない村議会議員選挙なら、直接候補者に会ったときに『何あの顔、全然違うじゃない!』ってなる。でも、大きな選挙区だと、有権者全員がじかに会えるわけじゃないから、修整しても本当の顔との違いは気付かれにくい。とすると、なるべく見栄えのいいものを作ろうとするのは、理屈としては成り立ちます」
ところで、細部に個性はあるものの、やっぱり選挙ポスターって、どれも「だいたい同じ」に見えてしまいます。
三浦さんは「ポスターは、規定の大きさの範囲内だったら、どんなポスターを作ってもいい。丸いのでも、ひし形でもいいんです」と言います。
しかし、掲示板に並ぶポスターはほとんどが定型サイズ。奇抜なポスターが生まれにくいのはなぜでしょう。
「それはやっぱり、当選するためには奇をてらっちゃいけないからです。奇をてらうということは、冒険ですよね。プラスに働くかマイナスに働くか分からない。勝つか負けるかの真剣勝負で、そんな冒険なかなかできないです」
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