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中国の受験、戸籍で決まる難易度 「地獄式」から「ハッピー式」まで

本籍地によって難易度が違う中国の受験制度。中でも「地獄式」と言われるほど難しい江蘇省の試験会場では、思わずガッツポーズをする受験者も=2016年6月
本籍地によって難易度が違う中国の受験制度。中でも「地獄式」と言われるほど難しい江蘇省の試験会場では、思わずガッツポーズをする受験者も=2016年6月 出典: ロイター

目次

 6月は中国の大学受験(高考)シーズンです。その後の人生を左右する大学入試、中国の受験生には、はんぱないプレッシャーがかかります。中国は本籍地によって試験の難易度が変わるという特殊な事情があり、ネット上では「地獄式」「悪夢式」「ハッピー式」など、独特なネーミングがつけられています。中国の入試とは、一体どのようなものなのでしょうか。

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仮眠を取る高校3年生=安徽省、2012年6月
仮眠を取る高校3年生=安徽省、2012年6月 出典:ロイター

2種類ある「ハッピー式」

 「ハッピー式」と言われている地域は2種類あります。

 一つは、直轄市のような大都市です。中国は大学の定員が地域ごとに割り振られています。大学が設置されている場所、つまり地元の学生の定員枠は、その他の地域よりも多いのが一般的です。

 その結果、北京大や清華大のような名門大学がある地域に住んでいる受験生は、他の地域の受験生よりも試験成績が低くても入学できてしまいます。北京・上海・天津などには「ハッピー式」の称号が贈られています。

 もう一つ、チベットや青海省などの貧困地域も「ハッピー式」と呼ばれています。経済発展が遅れている貧困地域は「支援」という形で、試験成績が低くても受験生が入学できるよう優遇されています。

雨のなか、子どもたちに弁当を届ける母親たち=安徽省、2012年6月
雨のなか、子どもたちに弁当を届ける母親たち=安徽省、2012年6月 出典:ロイター

動物のように働く「地獄式」

 「ハッピー式」の反対が「悪夢式」「地獄式」です。

 直轄市より人口が多く、進学熱の高い一方、地元に大学が少ない地域は、試験の難易度が高くなります。

 浙江省、湖北省、湖南省は「悪夢式」と言われています。高校3年生になると、休日がほとんどなく、毎日の勉強時間は16時間以上、「無数」の宿題で詰め込まれるという、まさに「悪夢」のような日々が待ち受けています。

 「悪夢式」より、さらに難しいのが「地獄式」です。その代表格、江蘇省についてはネット上で次のような感想が書き込まれています。

「学生は自分たちを働く動物だと思い、先生は学生たちを超人だと思う。高校三年間は、二年で三年分の授業を受け、残りの一年、命がけで復習し、大学受験に臨む」
大学入試の試験場を警備する武装警察=雲南省、2016年6月
大学入試の試験場を警備する武装警察=雲南省、2016年6月 出典:ロイター

試験の難易度にも格差

 中国は試験問題も地域よって異なります。「ハッピー式」「悪夢式」「地獄式」の差はどんなものなのか。ネット上では次のような比較が、ネタとして拡散しています。

【国語】
▼簡単:『西遊記』に妖怪はいるか?いないか?
▼普通:『西遊記』の作者の名前は?
▼困難:『西遊記』に登場した妖怪の名前をすべて答えよ

【歴史】
▼簡単:中国が建国された年は?
▼普通:中国が建国された年月日は?
▼困難:中国が建国された日の記念行事で放たれた鳩の数は?

【数学】
▼簡単:空には何個の太陽がある?
▼普通:空には何がある?
▼困難:空には何個の星がある?

 実際に出題された問題ではありませんが、「その通り」と、うなずくネットユーザーが少なくありません。

ラストスパートをかけた受験生たち=安徽省、2012年6月
ラストスパートをかけた受験生たち=安徽省、2012年6月 出典:ロイター

入学枠をめぐって起きた「事件」

 2016年5月、ある「事件」が起きます。元々、「悪夢式」「地獄式」と呼ばれていた江蘇省や湖北省などが、地元の受験生向けの入学定員を減らし、貧困地域と言われている西部の省などに「譲渡」する動きがあると報道されたのです。

 中央政府の意向とも言われているこの報道を受けて、地元の保護者から猛烈な抗議が起きます。結局、地元政府が「大学入学枠」は変わらないという声明を出す事態になりました。

受験工場とも呼ばれる毛坦廠中学。試験会場に受験生を送り出す保護者ら=安徽省、2013年6月
受験工場とも呼ばれる毛坦廠中学。試験会場に受験生を送り出す保護者ら=安徽省、2013年6月 出典:ロイター

本籍地を使い分ける「借読」

 定員枠による不公平感から、ネット上では、保護者向けに大胆な「移住」アドバイスも広まっています。

・もし、あなたが「地獄式」の江蘇省に住んでいるなら、家を100万元(約1800万円)で売りましょう

・次に、ラサ(チベット自治区の区都)に引っ越し、40万元(約720万円)で家を買います

・さらに、30万元(約540万円)で店舗を買い、10万元(約180万円)を投資にまわせば、チベットの本籍地が手に入ります

・子どもは受験勉強に熱心な「地獄式」の江蘇省で勉強させて、受験の時だけチベットに呼び寄せます

・「地獄式」の受験勉強で鍛えた頭で、「ハッピー式」の入試を受験

・名門大学入学の可能性が高まり、親も自然環境のいい地域で長生ができます
受験生を待つ保護者たち=浙江省、2016年6月
受験生を待つ保護者たち=浙江省、2016年6月 出典:ロイター

 ジョークの部分もありますが、「借読(読=勉強する場所を借りる)」と言われる、本籍地と勉強する場所を使い分ける手法は、教育熱心な家庭とって一つの選択肢になっているのも事実です。

 地域の枠に縛られた中国の大学受験制度。急激な経済発展と一人っ子政策による進学熱の高まりが、不公平感に拍車をかけているようです。

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