エンタメ
「満場一致のブス!」 女性芸人がもじゃもじゃヘアを選ぶ合理的理由
舞台に立つ自分を、遠い2階席からでも誰だかわかってほしい。芸人にとって髪形はキャラを見せる大切な要素です。特にツッコミとボケでいうところのボケ役の人には、「おもしろいことをいいそう」という期待を高める武器になる。なかでも、もじゃもじゃ頭を女性芸人たちが選ぶのは「ブスに見える」という合理的な理由があるのです。(朝日新聞大阪本社生活文化部記者・山下奈緒子)
12日にあった上方漫才大賞のノミネート者発表会見を取材すると、新人賞にノミネートされたアルミカンの赤阪侑子さんは、真ん中分けで下の方に重みが出るもじゃもじゃ頭。漫才では「見た目が悪い方」という立ち位置で、ボケを担当しています。女芸人から「えらいブスやな」と言われた時には、会場からどっと笑いがおこりました。
これが特徴のない髪形だったら、ここまで観客が納得するかどうか。顔だけで誰が見てもブサイクな人って意外といないもの。もじゃもじゃにすることで「満場一致のブス」となったのです。舞台でうなずくだけでも動きが増幅して、コミカルにも見える。可愛くなろうと思ってわざともじゃもじゃにする女性ってそうはいないでしょうから、ブスになるためにこの髪形はうってつけ。「ブス認定」できる要素を持つことで、観客は安心して笑えます。
その髪形を他の芸人が見逃すはずもなく、男性コンビで同じくボケがもじゃもじゃ頭の「学天即の四条(和也)さん?」とツッコミを入れられていました。そう、強烈な個性もかぶってしまっては台無し。もじゃもじゃ界はいま激戦区の模様です。
おいしい「もじゃもじゃ枠」を先行するのが、テレビの露出も増えてきたニッチェのボケの江上敬子さんでしょう。爆発ヘアを二つ結びにしています。二つのもじゃもじゃがそれぞれ顔とほぼ同じ大きさで、テレビのバラエティー番組では「顔が三つある!」と突っ込まれ芸の一部になっています。
ツッコミとボケの髪形の違いを体現したのが吉本新喜劇の岡田直子さん。2005年に芸人デビューし、数年間は漫才のツッコミとして活動していました。その時は「ツッコミだから」という理由でショートカットだったといいます。確かに、ツッコミが目立ち過ぎるとボケが引き立たちませんよね。
そしてピン芸人の道を歩む現在は七三分けで頭の上に二つのお団子。この髪形にいたるまでには、ある2人の先輩芸人のアドバイスがありました。
新喜劇に所属したのは2010年。直後はまだまだ髪が短かった岡田さんに、最初に髪形についてアドバイスしたのは現在座長として活躍するすっちーさん。「髪形って大事やで。お前は三枚目やねんから、舞台上で自分をブスに見せなあかん」と言われ、岡田さんは、はっとしたといいます。
思い浮かんだのが大橋巨泉さんでした。当時から黒縁眼鏡をかけていたので「大橋巨泉に似ている」といじられることが多く、同じ髪形にしようと思ったものの、美容室に行くお金もなく伸び放題。すると後輩芸人が岡田さんの髪の毛で遊ぶようになり、ある日二つのお団子頭が出来上がりました。
それを見た座長の川畑泰史さんは「おもろいやん!」。その言葉を聞いた岡田さんは「これにします!」と即答し、現在まで必ずこの髪形で舞台に立っています。
新喜劇で二つのお団子頭にしているのは岡田さんだけ。顔の見えない後ろの席でも誰だかわかって個性が出ている。それにほんのりダサさを効かせた髪形なので、ちゃんと「ブス」に見えるというのもポイントです。
今日はNGK新喜劇、内場兄さん週の楽日です(*`・ω・)ゞ
— 岡田直子(吉本新喜劇) (@naoko0430) 2016年3月21日
藍ちゃん曰く市役所のポスターみたいらしいです◎
キャッチコピーは「規律、正しく、大正区」だそうです……なんか韻踏んでて笑けたwww pic.twitter.com/K40aUsvX8G
思えば芸人の「もじゃもじゃ」の源流は、笑福亭鶴瓶さんかもしれません。過去のインタビューでは、アフロにした理由について「落語家という、昔からみんなの中にあるイメージを無くしたかったからだろう」と語っています。お堅く見える落語とはまさに対極。もじゃもじゃ頭は何か壁を突き破る力があるのかもしれません。
そして最近ではラーメンズの片桐仁さん。ラーメンズのシュールな世界観はもちろんネタによるものですが、髪形も雰囲気を作り上げる一つの要素になってはいます。
カワイイは作れる!って言いますが、誰もが認めるブスにも自然にはなれません。特徴的な髪形をした芸人たちは、ブスであり続けるために相当な覚悟をもっているのです。
「髪形芸人」は4月16日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
1/16枚