MENU CLOSE

話題

閉店した魚屋に粋な感謝状 シャッターに貼り紙「倖わせな味でした」

埼玉県川口市の鮮魚店「魚勝」が2月、58年間の営業を終えました。惜しむ声は尽きず、閉じたシャッターに常連客とおぼしき人物が貼り紙をしました。

閉じたシャッターに、常連客とおぼしき人物が貼った紙
閉じたシャッターに、常連客とおぼしき人物が貼った紙 出典: 朝日新聞

目次

 「活(い)き良し、盛り良し、夫婦仲良し」と常連客が口をそろえる埼玉県川口市の鮮魚店「魚勝」が2月、58年間の営業を終えました。惜しむ声は尽きず、閉じたシャッターに「清水の次郎長」を名乗る、常連客とおぼしき人物が貼り紙をしました。「感謝状」ともいえるその内容に、近隣住民やネット上で「心温まる」と話題になっています。

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」

「魚勝様」と題した貼り紙


 JR西川口駅から歩いて10分ほど。裸電球がぶら下がり、おつりはつるしたかごの中から。店構えは魚屋というより「刺し身屋」です。そんな店のシャッターに貼られた「閉店のお知らせ」。その隣には「魚勝様」と題した、こんな貼り紙がありました。

知って居ますよ刺身(さしみ)の味を 百名以上並んで買った思い出も 包丁一筋半世紀 旦那が病に何度か伏しても立ち上(あが)り 包丁を又(また)握って下さった 魚勝の刺身は私共庶民の倖(しあ)わせな味でした 店が閉じられ とても悲しいです 明日も元気な夫婦 魚勝の声が聞こえてきそうな未練です 永(なが)い間の感謝に心をこめてありがとうございました
閉じたシャッターに、常連客とおぼしき人物が貼った紙
閉じたシャッターに、常連客とおぼしき人物が貼った紙 出典: 朝日新聞

閉店は2月16日


 切り盛りしてきたのは、2代目の塩川庄平さん(72)、和美さん(66)夫妻。魚の下準備で手がいっぱいになるから、店を開けるのは夕方4時半からの3時間でしたが、開店前から客が並ぶ名物店でした。貼り紙にも「百名以上並んで買った思い出も」と書かれています。

 閉店は2月16日。その翌々日に貼り紙を見つけた近くの60代の主婦は「慕われた証し。2人をねぎらう気持ちはみんな同じです」。粋な「感謝状」に、夫妻は家族や街の変遷と稼業の盛衰を思い浮かべたそうです。

 実は、店への貼り紙は2度目です。庄平さんが胃の手術で半年間休んだ6年前のこと。「春に再開します」と書いた知らせに「頑張って」「待ってます」。思わぬ寄せ書きに涙したといいます。

「よく働いたよ」。裸電球がともる店内で後片付けをする塩川庄平さん、和美さん夫妻=埼玉県川口市、伊藤典俊撮影
「よく働いたよ」。裸電球がともる店内で後片付けをする塩川庄平さん、和美さん夫妻=埼玉県川口市、伊藤典俊撮影 出典: 朝日新聞

「お陰さまで清々しい気持ち」


 約40年前。庄平さんは結婚直後に父の跡を継ぎました。その頃、大型店の立地で窮地に追い込まれた際に、救ったのは和美さんが好きな料理でした。炭を起こしてサンマを焼き、イカの塩辛やあん肝の酒蒸し、ウナギの白焼きも手作りしました。これらが目玉商品となり、店は徐々に持ち直したのです。

 1991年に歩道が整備されるまで、店前に並ぶ客の列は車道にはみ出し、車が進まず「魚勝渋滞」と呼ばれたことも。中でも天然のインドマグロは、刺し身屋の由縁でもあり、消費税アップにもめげず、最後まで「一皿500円」を貫きました。

 店をたたむきっかけは「耳が遠くなって客商売は難しいから」と庄平さん。和美さんも、ひざに痛みを覚えるようになりました。仕入れ先の築地市場の移転で懇意の問屋の廃業話もありました。

 木造アパートを改造した店内は20平方メートルに満たず、水道管はむき出し。必需品である店の冷凍庫や冷蔵庫は古くなり、陳列ケースは30年もの。庄平さんは「ここで娘3人を育てたんだ」と胸を張ります。

 貼り紙は約1週間でなくなっていました。「ありがとうございました」と最後に記されていた貼り紙のやさしさに、「お陰さまで清々(すがすが)しい気持ち」。夫妻もやさしくつぶやきました。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます