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2016年01月25日

日本社会は「努力不足」に見える親に厳しい 本田由紀×森山誉恵・上

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 近年、大きな社会課題として注目されている「子どもの貧困」。今回の対談では、教育社会学者の本田由紀氏(東京大学)と、NPO法人3keys代表森山誉恵氏に経済格差が子育てや子どもの成長に及ぼす影響について語っていただきました。学術的な視点と、現場の視点から今子どもたちに必要な支援とは何かを考えます。まずは、前編をどうぞ。

教育社会学者 本田由紀氏(左)、NPO法人3keys代表理事 森山誉恵氏(右)

教育社会学者 本田由紀氏(左)、NPO法人3keys代表理事 森山誉恵氏(右)

出典:Conobie

「教育格差」とひとくくりにできない複雑さ

本田:本日はどうぞよろしくお願いいたします。私は東京大学で、家族と教育、そして仕事という3つの領域の間の関係について、教育社会学の立場から調査・研究を行っています。

森山さんはNPO法人3keysの代表ということですが、どのようなご活動をなさっているのでしょうか。

森山:3keysでは、虐待や貧困のもとで育ってきた子どもたちに必要なサポートを届ける活動をしています。その中には児童養護施設も対象となっており、虐待や育児放棄などによって親元で暮らせない子どもたちもいます。

子どもたちへの学習支援に加えて、そういった子どもたちの現状を社会に伝える啓発活動や、困難な状態にある子どもたちの相談事業なども同時に行っています。

子どもは生まれる場所や育つ場所を選べませんから、親や家庭の状況によらず、すべての子どもたちの権利や社会保障が守られる仕組みをつくっていきたいという思いで活動をしています。

NPO法人3keysでの活動の様子

NPO法人3keysでの活動の様子

出典:Conobie

本田:そうした学習支援や相談事業を行う中で見える子どもたちの様子は、どのようなものでしょうか。

森山:子どもたちの多くは教育や愛情をはじめ、様々な社会資源から孤立していることが多いですが、その理由は様々で、一言では語ることができません。そもそも勉強に取り組もうという学習意欲すらなくなってしまっている子どももいれば、意欲や焦りはすごくあるのに学力が追いつかない子どもたちもいます。

一言で「教育格差」といっても、様々な困難の形があると感じています。

本田:学力に困難を抱えているだけでなく、学習意欲が低い子どもたちも多いということですね。子どもたちがそのような状況に陥ってしまう理由として、どういった背景があるのでしょうか。

森山:例えば私たちが教えてきた子どもたちの中に、答えを一つでも間違えるとノートを破いてしまったり、パニックになってしまったりする子がいたんですね。後々知ったことですが、間違えると親に叩かれてしまうなど、過度なしつけの体験をしてきたことが原因になっていたのだと思います。

一方、親が子どもに無関心で、宿題やテストを頑張っても全く褒めてもらえなかったという経験を持つ子どももいます。その寂しさから、授業中にも走り回るなどの問題行動を起こして先生の気を引こうとし、いわゆる「問題児」となってしまうケースもあります。

このように、学習意欲が低かったり問題行動を起こしてしまったりする子たちは、その子たち自身に問題があるのではなく、そういったネガティブな背景が必ずといっていいほど存在していると感じています。

子どもの困難の背景に、その親の困難も見え隠れする

本田:過度な、もしくは放任主義的なしつけを行う親御さんがいるということでしたが、親御さんがお子さんにそうした関わり方をしてしまう理由を森山さんはどのように見ていますか?

森山:どの親御さんも、わざとお子さんを傷つけようとして接しているわけではないと思うんです。

「自分が苦労してきたからこそ、この子には幸せになってほしい」という気持ちから厳しいしつけをしてしまったり、親自身も十分に愛された経験がなく子どもへの接し方が分からなかったり。また経済的な困窮や、まわりに助けを呼べず一人で抱え、状況がますますエスカレートしてしまい、お子さんに優しく接する物理的・精神的余裕を持てないという方もいらっしゃいます。

その背景には親御さん自身の何らかの困窮や孤立が必ず存在すると感じています。

本田:親自身にもそういった背景があるのですから、「悪い親だ」というように親を責めて終わりにできる問題ではないということですよね。

親御さんが抱えている問題も、経済的な困窮や、自身が受けてきた不適切な養育経験、精神的なゆとりのなさなど、複雑な要因が絡み合っています。ですから、一般的に想定される「困窮者」という像に合わせて問題を捉えたり支援をしたりせず、個別のケースに合わせた支援が必要になってきますよね。

森山:そうですね。経済困窮や格差だけが注目されやすいですが、それと同時に、孤立や人への不信感、自尊心の低下などさまざまな要素が絡み合って複雑な課題となっており、簡単に解決できる問題ではないと感じています。

そうした複雑な課題解決を同時にサポートしていかなければ、かえって事態を悪化させてしまうように感じます。

出典:Conobie

「努力不足」に見える親に、厳しい社会の目

本田:一方で、そうした親や子どもたちに対する“共感”を社会で呼び起こしていくことは、かなり難しいと感じています。

例えば、「経済的に困窮している状態にある家庭や、そこに育つ子どもたちに対して支援が必要だ」という主張をすると、「厳しい環境にあっても『努力』している家庭もあるのに、一部の親や子どものみを支援するのは不公平である」といった批判を受けることもあります。

世の中で経済的に厳しい状況にある人たちが増えている中で、そうした支援を受けることはある種「ずるい」というように言われやすくなってしまっている側面もあります。

また厳しい環境にあっても、「努力している姿や意欲」というものを極限まで示さなければ、支援されることすら許されないというような風潮も生まれつつあり、とても大きな問題だと感じています。

森山:様々な事情や背景があって、結果として貧困になってしまっているという部分を含めて社会に伝えていかなければ、「怠けているから貧困になった」「そんな人たちを支援する必要はない」という意見が生まれてしまいます。

誰しも、望んで貧困にはなりたくはないはずですから、何かしら環境的に資源が足りず、努力できない背景があったのだということを社会全体が理解していかなくてはならないのだと思います。

責めるのは簡単で、そのツケが子どもたちにいってしまうこともひっくるめて、改善しなくても良いと思うなら別ですが、私は親がどんなに困窮していても、子どもたちにまで絶望を与えるのは納得がいきません。そのためには、責めることではなく、原因を理解し、みんなで状況を改善していくしかないと思っています。

本田:90年代初めのバブル経済崩壊以降の社会情勢を考えると、「努力」というものが、必ずしも収入や仕事に反映されにくい状況が続いています。日本経済全体が停滞している中で、そうした社会状況のひずみを「努力不足」という個人の自己責任にすり替えてはいけないのではないでしょうか。

▶後編は、「経済格差が人間関係に及ぼす影響」「そうした問題を解決する支援のありかた」について語っていただきます。

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◆教育社会学者 本田由紀氏(東京大学教授)
教育社会学の立場から、家族と教育、教育と仕事、仕事と家族という、異なる社会領域間の関係について調査研究を行う。90年代以降における、この3つの領域における矛盾が、家庭教育に対する圧力や格差の高まり、「学校から職業への移行」の機能不全、仕事の不安定化による家族形成の困難化といった問題を引き起こしていることに課題意識を持ち、学術的な観点から積極的な政策提言も行っている。

◆NPO法人3keys代表理事 森山誉恵氏
大学生時代に児童養護施設で行ったボランティアをきっかけに、格差の大きさの現状を知り、衝撃を受ける。その経験を生かし、児童養護施設に学習支援ボランティアを派遣する学習支援事業を開始。2011年にNPO法人3keysを設立する。今は児童養護施設への学習支援に限らず、生まれ育った環境によらず、自立や権利保障の観点から必要な支援・情報が十分に行き届く社会の創造をめざし活動を行う。
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3keysは児童養護施設にいる子どもたちをはじめ、虐待や貧困などで支援を必要とする子どもたちをサポートしています。現在、子どもたちやそのまわりの方々から相談が寄せられていますが、寄付者が不足しています。月々1,000円~10,000円のサポーターを募集しています!

3keys

月々1,000円~のマンスリーサポーターはこちらから


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