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お金と仕事

図書館の新刊本貸し出し、何が悪い? 「増刷脅かす」1年縛り求める

出版不況は、図書館のせい? 新刊本を1年間貸し出さないよう、出版社が図書館に求めています。

図書館では予約待ちの常連、村上春樹作品。「1Q84」発売時は開店時間を前倒しした書店にファンが詰めかけた=2010年4月16日、大阪市北区、小玉重隆撮影
図書館では予約待ちの常連、村上春樹作品。「1Q84」発売時は開店時間を前倒しした書店にファンが詰めかけた=2010年4月16日、大阪市北区、小玉重隆撮影

目次

 出版不況は、図書館のせい? 新刊本を1年間貸し出さないよう、出版社が図書館に求めています。この問題、実は1970年代から始まっていたそうです。海外では、著者に国が一定額を補償するケースも。解決策はあるのでしょうか?

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「図書館が無料貸本屋化している」

 出版不況の中、出版社からやり玉にあげられている新刊本の貸し出し。慶応大の根本彰教授(図書館情報学)は朝日新聞の記事(2015年10月29日)で、発端は高度経済成長の時代にさかのぼることを指摘しています。

 1970年代、自治体が住民サービスの充実させる中、図書館の貸し出しを重視しました。根本教授は「出版は江戸時代以来、根付いてきた産業。そこに公共による資料の無料提供という全く異なる理念が乗っかった」と分析します。

 2000年代初めごろ、図書館の新刊本貸し出し問題が表面化します。作家らから「図書館が無料貸本屋化している」という批判が起き、2002年に大手出版社による「出版社11社の会」が発足。「複本」という一つの図書館による人気作品の複数冊購入を問題視しました。

 2003年には、図書館協会と日本書籍出版協会が、実態調査をしましたが、商業的影響の数字の評価をめぐって双方の議論は平行線をたどりました。

「ツタヤ図書館」の先駆け、武雄市図書館=佐賀県武雄市
「ツタヤ図書館」の先駆け、武雄市図書館=佐賀県武雄市 出典: 朝日新聞
「発端は70年代にさかのぼる」。そう分析するのは、慶応大の根本彰教授(図書館情報学)だ。根本教授によると、高度経済成長を背景に自治体が住民サービスを重視しはじめ、その中で図書館は「貸し出し」の機能を強く打ち出すようになったという。「出版は江戸時代以来、根付いてきた産業。そこに公共による資料の無料提供という全く異なる理念が乗っかった」
(図書館考)売れぬ本「貸し出しが一因」 「新刊1年猶予」出版社などが要請へ
00年代初めごろ、作家らから「図書館が無料貸本屋化している」という批判が表面化。02年には大手出版社による「出版社11社の会」が発足し、一つの図書館が人気作品を複数冊購入する「複本」を問題視してきた。03年には、図書館協会と日本書籍出版協会が、複本の商業的影響の実態調査をしたが、数字の評価をめぐって双方の議論が平行線をたどった経緯がある。
(図書館考)売れぬ本「貸し出しが一因」 「新刊1年猶予」出版社などが要請へ

「増刷ラインに届かない」

 その間に、出版不況が深刻化します。国内の書籍(雑誌を除く)の売り上げのピークは1996年で、以降、減少傾向に歯止めがかかっていません。2014年はピークの7割弱に落ち込みました。出版不況の一方、全国の公共図書館(ほぼ公立)は増加傾向にあります。10年で400館以上増え、3246館になっています。

 2015年10月、全国図書館大会の分科会で出版社と図書館との議論が紛糾しました。

 新潮社の佐藤隆信社長が図書館関係者を前に「増刷できたはずのものができなくなり、出版社が非常に苦労している」と訴えたのです。出版社が増刷を重視するのは、重版できて初めて採算ラインに乗るという事情があるからです。

 大手出版社の文芸作品は一般的に、最初に刷った部数(初版)の9割が売れて採算ラインに乗り、増刷分が利益となるといわれています。ベストセラーが出るのはまれなため、初版2万~3万程度の作品で収益を確保できるかが死活問題になっています。図書館による新刊本の貸し出しによって、増刷ラインに届きにくくなっているというのが、出版社側の言い分です。

神戸の海文堂書店が閉店した日には、大勢の人が駆けつけた=2013年9月30日、神戸市中央区
神戸の海文堂書店が閉店した日には、大勢の人が駆けつけた=2013年9月30日、神戸市中央区 出典: 朝日新聞
大手出版社の文芸作品は一般的に、最初に刷った部数(初版)の9割が売れて採算ラインに乗り、増刷分が利益となるといわれる。数十万部に到達するベストセラーはまれで、大御所から中堅人気作家による初版2万~3万程度の作品で収益を確保できるかが死活問題だ。だが、近年はこれらの作品でなかなか増刷が出ないという。
(図書館考)売れぬ本「貸し出しが一因」 「新刊1年猶予」出版社などが要請へ

図書館側「実証的なデータない」

 図書館側の受け止めは複雑です。日本図書館協会の山本宏義副理事長は朝日新聞の記事(2015年10月29日)で「図書館の影響で出版社の売り上げがどのくらい減るかという実証的なデータがあるわけではない」とコメントしています。

 出版を文化としてとらえた時、誰でも無料で本が借りられることは、図書館の大事な機能です。ヨーロッパの多くの国では、著者に一定金額を補償する制度を導入しています。

 スマホやゲームなど、図書館以外にも出版不況の影響は考えられます。根本教授は「公立図書館の貸し出しが出版不況の原因になっているのか調査する必要があります」と話しています。

早朝5時にハリー・ポッター最新作の販売が開始された書店には、夜明け前にもかかわらず行列ができた=2002年10月23日、東京・八王子駅前
早朝5時にハリー・ポッター最新作の販売が開始された書店には、夜明け前にもかかわらず行列ができた=2002年10月23日、東京・八王子駅前 出典: 朝日新聞
今回の「貸し出し猶予」の要請の動きに、日本図書館協会は困惑する。山本宏義副理事長は「図書館の影響で出版社の売り上げがどのくらい減るかという実証的なデータがあるわけではない」と話す。
(図書館考)売れぬ本「貸し出しが一因」 「新刊1年猶予」出版社などが要請へ
海外はどうか。EU(欧州連合)では図書館で貸し出された分を国が著者に補塡(ほてん)する制度を導入する国も。英米でも、貸し出しの一部有料化や図書館用の本を仕立てて高価格化するなどの方策がとられているという。しかし日本では、公立図書館が入館料その他の「いかなる対価をも徴収してはならない」と規定する図書館法に抵触するか、そもそも議論が低調なままだ。
(図書館考)売れぬ本「貸し出しが一因」 「新刊1年猶予」出版社などが要請へ
公立図書館の貸し出しが出版不況の原因になっているのか調査する必要があります。書籍の売り上げは減り、公立図書館での貸出冊数は増えていますが、自治体財政の悪化により、購入費は減っています。新刊文芸書を複数冊購入しているところがあるとはいえ、本によって予約待ちが1年以上に及ぶこともあり過剰とは感じません。
2016年1月6日:(声 どう思いますか)2015年11月13日付掲載の「図書館の新刊貸し出し」めぐる投稿:朝日新聞紙面から

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