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アニメの聖地「横瀬」ってどこだ? なんにもない、それがいい

公開中のアニメ「心が叫びたがってるんだ。」の舞台は同じ「あの花」の秩父市の隣、横瀬町。「聖地」は、ここさけ効果で再び熱が上がっています。

アニメ「心が叫びたがってるんだ。」の舞台の一つ、横瀬町の大慈寺
アニメ「心が叫びたがってるんだ。」の舞台の一つ、横瀬町の大慈寺

目次

 埼玉県秩父市が舞台のアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(あの花)のスタッフが贈るアニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」(ここさけ)が公開中です。舞台は同じ秩父市とお隣の横瀬町。周辺にはレストランも商店街もないというスポットが新たな「聖地」になりました。

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アニメの聖地として定着した秩父

 秩父の鉄道玄関口・西武秩父駅の一角には、2作品のキャラクターパネルが置かれています。あの花のおかげで秩父はアニメの聖地としてすっかり定着しました。市や埼玉県など行政はもちろん、市民もアニメを受け入れて商店街にはキャラクターの街頭フラッグが並びます。積極的にキャラクターグッズを作るお店もあるほどです。

 あの花の放送は2011年4~6月。東日本大震災の影響で観光客が少なくなっていたところ、アニメ放送直後から若者を中心に秩父にファンが訪れるようになりました。「なんでこんなに若い人が来るのか」と地元の人が驚いたそうです。そもそも商店街を若い人が歩くことが少なく、観光客も12月の秩父夜祭や自然を楽しむ人が中心で、「落ち着いた観光地」でした。

西武鉄道西武秩父駅の一角で出迎えてくれるキャラ
西武鉄道西武秩父駅の一角で出迎えてくれるキャラ

あの花放送開始半年で8万人

 秩父市観光課によると、アニメが放送された年の4~10月は8万人が訪れ、3億2千万円の経済効果を生んだそうです。放送後も人気は続き、制作会社と市が協力して声優さんのイベントや聖地を巡るスタンプラリーなど様々な催しが開かれ、ファンは何度も足を運びました。

 しかし、昨年8月、放送後3年をもって公式イベントは最後に。「あの花夏祭 in ちちぶ Final」と題したイベントで、監督・長井龍雪さん、脚本・岡田麿里さん、キャラクターデザイン・田中将賀さんのあの花トリオによる映画の制作が発表され、会場はドっと沸きました。

寺などに掲げられたキャラクターフラッグ
寺などに掲げられたキャラクターフラッグ

「『聖地巡礼』は起きると思っていた」

 プロデューサーの斎藤俊輔さんは、あの花の舞台に秩父を選んだ理由について、2013年のインタビューで次のように答えています。

 「幼なじみを亡くしたトラウマで、気持ちがぐるぐるまわっている様子と重なる場所を探した。盆地で山に囲まれた閉塞(へいそく)感のようなものが、キャラクターの心情を補強している」

 多くのファンが訪れていることについては「『聖地巡礼』は起きると思っていた。市民に迷惑をかけたらという不安があったが、協力して充実した取り組みをしている。ファンが作品を軸にソーシャルメディアでつながり、実景でコミュニケーションを取る。他人を友達にして巡礼を活発化している」
 
 「聖地巡礼」が地元の市民も巻き込んだ理由については「いろいろ考えたが、行き着くのは『素直に泣ける』。子どものころの感情と高校時代の感情は違う。誰もが経験する心の変わり方に共感できる」と分析。「(あの花の)劇場版はファンと秩父の方々への恩返しを込めて作った。『より素直に泣ける』作品」と語っています。

「あの花」の登場人物が並ぶイメージ画のモデルになった旧秩父橋下=2013年8月27日、秩父市寺尾
「あの花」の登場人物が並ぶイメージ画のモデルになった旧秩父橋下=2013年8月27日、秩父市寺尾

「ここさけ」はあこがれの青春

 映画「ここさけ」は、4人の高校生がミュージカル上演を通してモヤモヤと向き合い、前に進んでいく――、そんな青春群像劇です。9月19日に公開されました。

 主人公の少女は、幼い頃のトラウマでしゃべるとおなかが痛くなってしまいます。物語では、「言葉」が一つのキーワードです。映画を観た人たちからは、「泣いた」「感動した」との感想が相次ぎました。こんな青春いいなぁと憧れる人も多いようです。

 あの花と違って劇場で観なければならないのですが、何度も通うファンもいます。その余韻を携えて聖地へと足を向けるようです。ここさけを観て10月中旬に初めて秩父を訪れた神奈川県藤沢市の女性会社員(24)は「私は経験していないけど、みんなでぶつかり合いながら何かを作り上げるのはうらやましい。ずっと鼻ずるずるしてました。友達に勧めたい作品です」と話していました。



ファンをもてなしたい!嬉しい悲鳴

 秩父市と横瀬町では、映画の公開直前の9月14日から主要舞台をめぐるスタンプラリーを始めました。5000枚用意したラリー用紙は、開始1ヶ月で配布終了。追加で印刷したそうです。

 あの花の経験から秩父市は聖地としての対応に慣れていますが、横瀬町は初めてのこと。これまで、横瀬に来る観光客は登山など自然を楽しむ中高年や家族連れが中心でした。
 それでも秩父市の盛り上がりは知っていたので町民にさほど驚きはなく、「横瀬にも来てくれたか」と歓迎する声もあります。駅の観光案内所では売り上げが増え、従業員が喜んでいたそうです。

 田舎町の悩みはこれといったよりどころがないこと。舞台になった10番札所大慈寺、横瀬駅付近にはおみやげ屋さんやレストランなどファンが立ち寄れる場所がほぼゼロです。もちろんアニメのグッズを売っているところもありません。
 町振興課の加藤利伸さんは「せっかくきてくれた人がゆっくりしていける場所が近くにないので工夫しないといけない」と嬉しい悲鳴をあげています。

県や町職員の名刺も「ここさけ」仕様
県や町職員の名刺も「ここさけ」仕様

本堂の軒下に「巡礼ノート」

 ファンのために何かしたいという声も上がっています。10番札所大慈寺の斉藤知彦住職は「ファンの方に『お寺でアニメグッズは販売してないですか』と聞かれましたが、いまはあるのは通常のお守りやお札だけです。何かできないか検討しています」。本堂の軒下には、ファンが持ってきた「聖地巡礼ノート」を置いてファン同士の交流をできるようにしました。ファン自身が聖地活性化に一役買っているようです。
 横瀬町ブコーさん観光案内所では、グッズやアニメ雑誌などを集めた手作り感あふれるここさけコーナーを作っておもてなしをしています。

 ファンたちが訪れるのは、お寺や駅などわかりやすいスポットだけではありません。秩父地方の背景がリアルに描かれているため、風景を頼りに主人公たちが暮らす家も探します。普通の住宅地でさえも人気の「聖地」です。

 各地の聖地を巡っている神奈川県逗子市の男性(32)は「物語の重要なシーンで出てくる場所は、田舎であろうと関係ありません。横瀬は秩父と同じで池袋から行けて好立地。車で行く人もいるので、お寺などに駐車場があるのもいい」と話します。作品の舞台ガイドをネットで公開していますが、「迷惑がかからないように、住宅地が特定されるようなことはしませんよ」とマナーも徹底しています。


ここさけの舞台の一つ、横瀬町の大慈寺
ここさけの舞台の一つ、横瀬町の大慈寺

劇中の「生どら焼き」を追い求める

 舞台だけでなく劇中に出てくる「どら焼き」を探して秩父のお菓子屋さんをはしごしたファンもいました。

 ここさけの聖地巡礼4回目という東京都町田市の男性(39)は、「実在するかわからないけど、あったときに『実際あったんだ!』って嬉しくなります」と話します。公開1カ月で映画は4回鑑賞し、「1回目はストーリーを純粋に楽しんで、2回目は背景とか、どこが写っているか観て、3回目以降はアイテムばっか観てますね。どういうお菓子が出てきたとか、何飲んでるとか(笑)。うちらこういうのをばかばかしくやってます」。

「地域ずらしたのがよかった」

 10月17日にさいたま市大宮区で開かれたアニ玉祭にもここさけのブースが出され、大勢の人が楽しみました。
 秩父と横瀬のコーナーでは、秩父アニメツーリズム実行委員長が作るここさけのタオルやボールペン、西武鉄道が作る「ここさけ×あの花記念乗車券」を販売していました。

 聖地巡礼プロデューサーの柿崎俊道さんは「ここさけで秩父は聖地として延命されましたね。秩父駅で降りていたのが横瀬駅で降りるようになり、地域をずらしたのもよかった。歩ける範囲で(舞台が)ある。一つの作品では弱いが、二つ三つくるとクリエイターの目が向いて、一般企業もそこで何か仕掛けたら面白いかもしれないとなり、いろんな角度から秩父や横瀬を切り取ってもらえるようになる」と話しています。

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