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2015年10月05日

ノーベル医学生理学賞に大村智さん 元定時制高校の教師、異色の経歴

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科学未来フォーラムで講演する大村智さん=2013年11月5日

科学未来フォーラムで講演する大村智さん=2013年11月5日

出典: 朝日新聞


 ノーベル医学生理学賞に、北里大学特別栄誉教授の大村智博士が選ばれました。大村さんは熱帯病のワクチン「エバーメクチン」を発見。分子構造の一部を変えて効果を高めた「イベルメクチン」も開発し、家畜用の抗寄生虫薬として発売されました。山梨県韮崎市出身。定時制高校の教師から研究者に転じた異色の経歴です。年間3千もの菌を調べ、1974年、静岡県伊東市のゴルフ場の土から見つけ出しました。特許などで得たお金で、地元に美術館も寄贈しています。

大村さんが私費で寄贈した韮崎大村美術館。2階の展望カフェから富士山や八ケ岳を望める=山梨県韮崎市神山町鍋山

大村さんが私費で寄贈した韮崎大村美術館。2階の展望カフェから富士山や八ケ岳を望める=山梨県韮崎市神山町鍋山

出典: 朝日新聞

「この菌はおもしろそうだ」

 大村さんは、アフリカや中南米で広がる「顧みられない熱帯病」の制圧に貢献した化学者です。その発見は、40年ほど前にさかのぼります。大村さんのチームが伊豆半島で見つけた放線菌(細菌の仲間)が特効薬の元になっています。

 「この菌はおもしろそうだ」

 試験管に入った菌の培養液が並ぶ。その一つに大村智さんの目がとまりました。直感でした。菌はつくり出す化学物質によって培養液の色が違う。この菌は、これまでにない色や性質を示していました。

 1974年、静岡県伊東市の川奈ゴルフ場近くの土から見つけたカビに似た新しい放線菌。大村さんはこのとき、北里研究所抗生物質室長。研究員とともに小さなポリ袋とスプーンを持ち歩き、通勤や出張時、各地の土を集めていました。

 1グラムの土には1億もの微生物がいます。中には薬をつくり出す菌もいるだろう。だが入っている保証はどこにもない。「当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦の世界」。それでも、年間3千もの菌をひたすら調べ続けました。

 米国留学から戻り、米製薬大手メルクと3年契約で共同研究を始めて1年が過ぎたが、まだ成果は出ていませんでした。有望な菌の一つとして、メルクに送りました。しばらくして返事が来ます。「菌がつくる物質は寄生虫を退治する効果が高い」。マウスに飲ませると、感染していた寄生虫が激減したのです。

 当時、家畜の薬は人の薬を転用することが多く、効果はあまり期待できませんでした。家畜の栄養を奪う寄生虫を退治できれば、食肉や羊毛の増産につながります。化学物質の分子構造を決定し、「エバーメクチン」と名付けました。とくに牛や馬、羊などの腸管に寄生する線虫類に効きました。線虫の神経に働き、まひを起こして死滅させることがわかりました。

 79年に共同で論文を発表。分子構造の一部を変えて効果を高めた「イベルメクチン」を開発し、メルクは81年、家畜用の抗寄生虫薬として発売。2年後には動物薬の売り上げトップに躍り出ます。

大村智さん=1997年

大村智さん=1997年

出典: 朝日新聞

米製薬会社と共同研究

 大村さんは山梨大を卒業後、東京都立高校の定時制の教師に。生徒の学ぶ姿に胸を打たれ、東京理科大大学院で化学を学び直し、研究者をめざしました。
 36歳で米国に留学。帰国前、「戻っても研究費はない」と言われます。それなら「米国で集めるしかない」と、製薬会社をまわって共同研究を打診しました。

 問題は研究テーマをどうするか――。北里研究所の創設者・北里柴三郎や志賀潔らが培ってきた微生物研究で、人の病気の治療に貢献したい。だが、青カビから抗生物質「ペニシリン」が1920年代に見つかって以来、人の治療薬研究は激しい競争にさらされていました。「同じことをしても勝ち目はない」。そこで目を向けたのが動物薬でした。

 共同研究にメルクが応じ、提示してきた研究費は、日本なら教授一人の10倍に相当する年2500万円。留学先の教授が、大村さんの仕事ぶりや人柄から「いい仕事をする」と売り込んでくれました。

 企業との共同研究を「癒着」と冷ややかに見る研究者もいました。だが、「いい薬をつくろうと思ったら製薬会社の情報量は重要。世の中のためということを忘れなければ、問題はない」。そうして生まれたのがイベルメクチン。犬のフィラリアの治療などに広く使われています。

受賞メダルなどでいっぱいのケースを横に「朝日賞は賞も立派ですが、賞牌(しょうはい)の佐藤忠良のブロンズ像がいいんだよ」と大村智さん=韮崎市神山町

受賞メダルなどでいっぱいのケースを横に「朝日賞は賞も立派ですが、賞牌(しょうはい)の佐藤忠良のブロンズ像がいいんだよ」と大村智さん=韮崎市神山町

出典: 朝日新聞

アフリカ・中南米で効果

 もともと「動物に効けば人にも効く薬につながる」という道筋を描いていましたが、吉報は、意外に早くやってきました。

 動物用に発売してから1年。イベルメクチンが、アフリカや中南米で広がる人間の熱帯病「河川盲目症」にも効くことがわかりました。ブユにかまれ、体内にフィラリア線虫の幼虫が入り込む病気。激しいかゆみを起こし、失明につながる。感染者は推定2千万人。メルクは人間用の抗寄生虫薬「メクチザン」を開発、87年に無償提供を始めました。世界保健機関(WHO)は95年、これを使う新たな制圧プログラムをアフリカで始めました。毎年4万人の失明を防いでいます。

 大村さんは2004年、ガーナを訪ねます。失明し、子どもが持つ杖に引かれた高齢者の姿がありました。「薬ができて、子どもたちに自分の病気をうつさなくて済むことが、うれしい」と話してくれたそうです。

 大村研究室が見つけた化学物質は471、うち26が薬になりました。大村さんは「人との出会いを含めて、運が良かった。『チャンスは準備が整ったところにくる』という言葉を信じている」と話していました。

過去にノーベル賞を受賞した日本の偉人たち
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ノーベル医学生理学賞の受賞が決まり、会見する東京工業大栄誉教授の大隅良典さん=2016年10月3日、東京都目黒区、長島一浩撮影
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