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ガンダム原画、安彦良和のすごさ 美術館レベル「動きまで絵に」
ガンダムの作画監督、安彦良和さんの原画は、「皮膚の温かみや匂いまで感じさせる」と言われ、美術館レベルの作品と評価されています。
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ガンダムの作画監督、安彦良和さんの原画は、「皮膚の温かみや匂いまで感じさせる」と言われ、美術館レベルの作品と評価されています。
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機動戦士ガンダムの作画監督、安彦良和(やすひこ・よしかず)さんはアムロやシャアなど、多彩な登場人物を描き、新しいアニメの表現を生み出しました。その絵は、「皮膚の温かみや匂いまで感じさせる」と言われ、美術館レベルの作品と評価されています。戦闘シーンでは、「ぶっ殺してやる!」という目をしながら描いていたという安彦さん。演技者として、キャラクターの気持ちになりきり、絵に向き合っていたそうです。
1947年、北海道生まれの安彦さんは、「機動戦士ガンダム」でキャラクターデザインと作画監督を担当。マンガ家としても活躍し「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」「虹色のトロツキー」「ヤマトタケル」などを発表しました。
「さらば宇宙戦艦ヤマト」の作画も担当していた安彦さんにとって、「ガンダム」は特別な存在でした。ヤマトには、民間人はほとんど登場しません。一方、ガンダムには、戦災孤児や廃虚で泣き崩れる母子のような、戦争に巻き込まれた人々の生き様が描かれます。
安彦さんは、この「多様な人々が生きる一つの世界を描く」というコンセプトに共感し、ガンダムの作画監督を引き受けました。
主人公のアムロは、何でもできてリーダーシップもあるヒーローではありません。時にガンダムに乗ることすら拒む存在として描かれます。上官であるブライト艦長に殴られた時に言った「おやじにもぶたれたことないのに」のセリフは有名です。
アムロについて安彦さんは、こう語っています。
「カッコ悪い。だから顔も目鼻立ちが整っていないし、髪もクセっ毛。アニメーターは描きにくかったんじゃないかな」
安彦さんの原画を絶賛するのは、ガンダムの総監督である富野由悠季さんです。
「本人に自覚はないようだけど、天才です。当時の彼の鉛筆画は美術館に飾るレベル。描かれた人物が醸し出す空気感、みずみずしさ、皮膚の温かみや匂いまで感じさせるし、次の動作を予感させる『動き』が一枚の絵に入っている」(富野さん)
当時は、安彦さんのすごさに気付かなかったという富野さん。「制作中、彼の絵を机に積み上げて、たまったら捨ててた。見る目がなかったし、消耗品だと思っていた。恐ろしいことに、もっとうまい絵描きと出会えるだろうなんて思ってもいた。後になってすごさに気づいた」と言います。
富野さんは「物語の中で要求されている芝居を正確に表現している。限られた時間の中で、膨大な量の絵をこのレベルで描いた」と、その実力を認めています。
ガンダムの制作中、安彦さんは、キャラクターの気持ちに入っていきながら描いていたそうです。
「今の若いアニメーターの原画を見ると、演技が下手だな、と思うことがある。アニメーターは絵のうまい下手以前に、演技者にならないと」(安彦さん)
昨年から各地を巡回している「機動戦士ガンダム展」には、安彦さんの原画も多数、出品されます。昨年のインタビューでは「カッコよく言えば、僕らは未成熟で、青くさくて、『表現したい』という思いだけでやっていた。35年たって原画や資料を見てもらうというのは、正直恥ずかしいばかり」と話していた安彦さん。
富野さんは「映像やセル画では均質な線になってしまうが、原画の勢いのある生の線を現物で見れば、すごさが分かると思う」と話しています。
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「機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM」は2015年7月18日~9月27日まで(会期中無休、10:00~20:00、入館は19:00まで)、東京・六本木の森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催。