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性差別は都議会だけじゃない 「終わらせない」

東京都議会の性差別ヤジ問題は、鈴木議員の謝罪と自民党会派離脱で幕引きとなろうとしている。問題を追及する9万件の署名が集まった署名サイト「Change.org」を中心に、問題を根本から考える集会が開かれた。

都議会の性差別ヤジ問題を議論する参加者=岡林佐和撮影
都議会の性差別ヤジ問題を議論する参加者=岡林佐和撮影 出典: 朝日新聞

目次

9万人のネット署名 その先を目指し集う

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100人が議論に参加
100人が議論に参加
集まった参加者
集まった参加者

東京都議会で塩村文夏議員が自民党の鈴木章浩議員から「早く結婚した方がいい」などと性差別的なヤジを浴びた問題は、鈴木議員が謝罪して自民会派を離脱し、都議会では幕引き状態になろうとしている。

だが、塩村議員は他にも「産めないのか」などのヤジが聞こえたと主張しており、鈴木議員一人の問題にとどめるのはおかしいという声は収まらない。26日には参議院会館で集会が開かれ、100人が参加した。ネット署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で、ヤジ問題を追及するキャンペーンに9万人の署名が寄せられ、それをきっかけに集まった有志たちだ。

朝日新聞経済部の高橋末菜記者が参加したのは、署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」でセクハラヤジ問題の追及を求める9万人署名に賛同した有志らが26日に都内で開いた集会。主催者からの依頼で、集会の後半のワークショップで参加者らとともに議論に参加した。

東京都議会の性差別ヤジ問題は、鈴木議員の謝罪と自民党会派離脱で幕引きとなろうとしている。問題を追及する9万件の署名が集まった署名サイト「Change.org」を中心に、問題を根本から考える集会が開かれた。

ジェンダーギャップ世界105位 この現実をどう変える

ジャーナリストの津田大介さん(左)も参加した
ジャーナリストの津田大介さん(左)も参加した

そもそも、性差別ヤジは鈴木議員一人の問題なのか。都議会では舛添要一知事や他の都議もヤジを聞いて笑っていたと批判を受けている。女性議員への性差別的なヤジは各地の議会でよくある光景だったとの指摘もある。

司会を務めたジャーナリストの津田大介さんはこう述べた。「差別を認識すらしていない人が多い。ジェンダーギャップ指数105位の状況を変えていくきっかけにしたい」

ジェンダーギャップ指数とは、世界経済フォーラムが毎年公表し、男女平等の度合いを示す指数。日本は世界で136カ国中105位。先進国の中で驚くべき低さだ。集会では都議会の問題だけではなく、そういった日本社会そのもののあり方と今後、どう変えていくべきかが議論された。

議論する参加者たち
議論する参加者たち

集会の前半はパネル討論で、識者たちがそれぞれの見解を述べた。

ジェンダー問題に詳しい斎藤万里子さん(ジェンダーアクションプラットフォーム)は、世界の状況と比較して、女性議員が圧倒的に少ないことが背景にあると指摘した。国会議員の女性比率(衆院)は8%。世界平均の2割を大きく下回り、世界最低レベルにある。

「予算配分や政策を決める政治の場に、女性の声が届いていないのが問題。そしてそのことを問題だと感じるのが海外の常識だ」

不妊の体験者支援をするNPO法人Fine(ファイン)の松本亜樹子理事長は、不妊治療している人はいまや6人に1人、32人に1人は体外受精で生まれていることなど、妊娠をめぐる現状があまり知られていないという問題を指摘した。

「根幹にあるのは知らないということではないか。知らないと思いやれない、ひずみが起きてしまう。コミュニケーションがうまくいかなくなる」

慶応大学法学部2年で、未来のママをハッピーにするという活動をするmanma(マンマ)代表の新居日南恵(におりひなえ)さんは、女子大生の母親は専業主婦世代で、母親を見て、結婚して子どもを産むなら自分のやりたいことや仕事をあきらめないといけないと思っている女子大生は多いと指摘した。

「結婚しなければいけないというプレッシャーもまだ強いなかで、将来は結婚したいという思いと、自分自身も社会で活躍したいという葛藤のなかにいる」

父親の育児を支援するNPO法人ファザーリングジャパンの安藤哲也さんは、企業社会でも、育児や介護と仕事を両立する人を応援する上司=「イクボス」を増やしていく必要性を訴えた。

「ありていにいえば、男尊女卑の状況が議会だけでなく社会のあちこちに残っていると示す出来事だと思った」

ワークライフバランスに詳しい治部れんげさん(昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員)は「久々に腹が立った」と率直に表現したうえで、こう述べた。

「でもこの怒りを分析して、問題議員だけにとどまらない根本的な解決策を考える次のステップにつなげたい」

後半は、参加者らが四つのグループに分かれ、「女性差別を考える」「男性を巻き込む」「メディアについて考える」「説明責任を考える」の各テーマに分かれて議論した。
 
アイデアは、ホワイトボードに次々と張られた。
・議員にジェンダー教育をする」「次の選挙で自民に投票しない
・女性議員をクオータ(割り当て)制で増やす
・女性対男性という対立構造にしない
・海外メディアの圧力を利用する
・マスメディアのジェンダー差別表現に是正を命じる機関をつくる

最後に、Change.org日本代表のハリス鈴木絵美さんがこう呼びかけた。

「ここで終わってはいけない。たった1人が呼びかけを始めたネット署名は、9万人に広がった。1人でもアクションができる時代。この部屋を一歩出たときから、1人ひとりが行動を」

差別の空気、私たちの社会に蔓延 岡林佐和記者

今回の問題を知ったとき、私も怒り狂った。だけど「驚き」はなかった。「さもありなん」という感じか。地方議会の取材も経験してきたし、私も含め、働く女性にとってセクハラはまだすごく身近にある。特に記者という仕事は、権力を持つ人(日本では多くは男性)に接する機会が多い。記者を10年もやっている女性なら、セクハラ被害のひとつやふたつはみんな持っている。

私はいま、主に女性の労働問題、ワークライフバランス、ジェンダーの問題などに関心を持って取材している。ネット署名をきっかけにしたイベントが急きょ開かれると聞き、志願して取材にいった。

ヤジ問題をきっかけに、人権の意識が弱くて、男女格差の大きい日本を変えていくために知恵を出し合おうと、会社員や学生、女性だけでなく男性も、年代もバラバラの100人が集まっていた。

共感したのは「差別的なことを言われても、さらっと流すのが大人の女性という常識のなかで生きてきた」という女性のひとこと。都議の問題発言のあとに笑いが広がったというその空気感は、私たちが生きている社会に広く、深く蔓延している。

司会の津田大介さんは、そういう空気感が大手メディアの中にもあると指摘していた。大手メディアも男社会。「何か言うと『女はすぐヒステリー起こす』と言われる。だから今回のような問題について報じるときにも意見を言いにくい」と、ある女性アナウンサーがこぼしていたという。それからこう付け加えて笑いをとっていた。「テレビも新聞もいっぱい取材に来てますけど、ここは絶対カットされます」。

「メディアを考える」というテーマの議論のなかからは、こんなアイデアが出た。「海外メディアの圧力を利用する」。わたしたち国内メディアにはちょっと耳が痛い。人権侵害であるという認識は、むしろ海外メディアが「sexual abuse」と伝えてこそだった。

1人ひとりが行動を起こそう、と締めくくられたイベントで、わたしも背中を押された気がした。メディアのなかでできることは、きっとこれからたくさんある。

課題や解決策を議論し、ボードに貼っていく参加者たち
課題や解決策を議論し、ボードに貼っていく参加者たち

朝日新聞経済部の高橋末菜記者は、後半のワークショップでグループの一員となって実際に議論に参加してみた。以下はその体験談。

私は主催者から依頼され、「メディアを考える」というテーマ設定のグループの議論進行を手伝った。「マスコミ、もっとしっかりしろ」といった批判をうけるのではないか。ドキドキしながら臨んだ。

グループの参加者は20人ほど。うち男性は5人。まずは「都議の問題発言を聞いたとき、最初に感じたこと」「なぜそう感じたか」「今後私が考えたいこと、変えたいこと(展望・戦略)」「この展望、戦略を実現するために、私ができること(次のステップ)」の4点について、シートに各自書いてもらった。

メインの進行役を務めたのは、少子化や不妊問題に詳しいジャーナリストの白河桃子さん。ディスカッションの冒頭、「今回の報道、そもそもマスコミ報道は『セクハラヤジ』という表現でいいのか。そういったことも考えてみてください」と投げかけた。

4~5人の班に分かれてシートに書いたことをもとに話し合いが始まった。ある班では、「海外メディアが報道したことが効果的だった」「日本の社会を変えるには、外圧が必要だ」という話題になった。一部の海外メディアでは、「Sesist abuze」(性的虐待)という表現を使って報道していたことも指摘された。

参加した女性は「今回、飛び交う情報を英語やフランス語などに翻訳してツイッターでつぶやいた。海外メディアにもそのツイートが届いた。個人でもできるアクションでお勧め」。同じ班の市議の女性は「各地で市民が議会に陳情することで、ニュースになる。そうやってメディアを巻き込んでいくのはどうだろう」と提案した。

別の班では、不妊治療をしているという女性が「政治家の資質の低さに怒りを感じた。次はそういう議員を選挙で通さないことが必要。今回の事件に対し無関心な人々へどう働きかけたらいいでしょうか」と問いかけた。この班にも都内の自治体の市議の女性がいた。「テレビなどマスメディアが流す情報が多くの人の意識を作る。ジェンダー差別的な表現を監視して是正の命令を出せるような独立機関が必要」と訴えた。「署名した9万人のネットワークをつくり、情報を共有」という意見も。

出てきたアイデアを紙に書いて、参加者たちに賛同するものにシールを貼ってもらった。ショックだったのは、「海外メディアを利用する」というアイデアが多くの賛同を得たこと。日本のマスメディアは信頼しない、頼りにならない、ということなのか。「今回、ツイッターで先に盛り上がり、それをマスコミが追いかけて報じて大きくなった」と発言した男性もいた。

もちろん、国内のマスメディアがニュースを伝えたことを受けて、海外メディアが報道した側面はある。また、SNSでの盛り上がりをマスメディアがキャッチして広く報じ、社会問題にしていくことも、ソーシャルとマスの関係の一つのあり方だと思う。

しかしマスメディアも、日頃から女性蔑視な空気や慣習に対して、もっと敏感に反応することを求められているのは確かだ。「あんなヤジや、つられて笑うことを許す空気を作っているのはなにか。メディアの中にも、同じ空気があるのではないか」。司会の津田大輔さんの問いかけが、本質を突いている。

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